季節の記憶

保坂和志「季節の記憶」

鎌倉を舞台に、父と息子、友人の兄妹との穏やかな日々を描く。大きな出来事は何もなく、子どもの目から見た世界の不思議と、大人の目から見た世界の不思議が綴られていく。

季節の記憶は年とともに層を重ねる。季節の移ろいに感じることは年を取るほど増えていく。
“季節の記憶” の続きを読む

猟銃・闘牛

井上靖「猟銃・闘牛」

井上靖の初期短編集。表題作の一つ「猟銃」は、妻、愛人、愛人の娘の3人からの手紙で、13年間の許されぬ恋を綴る恋愛小説。猟銃を持った男の背に孤独を読み取り、美しく哀しい物語を紡ぐ。「闘牛」は、社運をかけた事業に邁進しながら、一方で自分の人生に乗り切れない男の悲哀が漂う。もう一作の「比良のシャクナゲ」もまた誇張された老いと独善の中に普遍的な人間の孤独が滲む。

十三億分の一の男 中国皇帝を巡る人類最大の権力闘争

峯村健司「十三億分の一の男 中国皇帝を巡る人類最大の権力闘争」

権力闘争のドキュメント。毛沢東と劉少奇、華国鋒と鄧小平、江沢民と胡錦濤……、政治と権力闘争は切っても切り離せない関係だが、中国共産党のそれは民主国家の想像を遥かに上回る。
“十三億分の一の男 中国皇帝を巡る人類最大の権力闘争” の続きを読む

眠れない一族 −食人の痕跡と殺人タンパクの謎

ダニエル・T・マックス「眠れない一族 −食人の痕跡と殺人タンパクの謎」

中年期に発症し、不眠状態から死に至る「致死性家族性不眠症」。その遺伝病に代々苦しめられてきたイタリアの一族の物語を軸に、スクレイピー、BSE、クロイツフェルト・ヤコブ病、クールーなどのプリオン病の歴史と、それに迫る科学者たちの姿を描く。
“眠れない一族 −食人の痕跡と殺人タンパクの謎” の続きを読む

移民の宴

高野秀行「移民の宴 日本に移り住んだ外国人の不思議な食生活」

在日外国人の「食」を訪ね歩いたルポ。取材相手の出身国はタイ、イラン、フィリピン、スーダンと多岐にわたる。彼らがふだん食べているのは日本食? それとも母国の料理? それなら食材はどこで手に入れているのだろう? 身近に住んでいても意外と知らない食生活。食はそのコミュニティーのありのままの姿を映し出す。
“移民の宴” の続きを読む

僕に踏まれた町と僕が踏まれた町

中島らも「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町」

進学校で落ちこぼれていった日々から、フーテン時代までを振り返るエッセイ集。躁鬱やアルコール依存のイメージ、夭逝したこともあって型破りな人という印象が強いが、文章は柔らかく、温かい。それは、自身の弱さを隠さず、人の弱さを否定しないからだろう。自殺した友人について書いた文章が特に心に残る。
“僕に踏まれた町と僕が踏まれた町” の続きを読む

思い出トランプ

向田邦子「思い出トランプ」

向田邦子の短編集。夫婦の微妙な空気を描いた作品が多い。一つ一つはかなり短い話なのに、登場人物の人生が透け、ここから前にも後ろにもいくらでも物語が書けそうなのはさすが名手。普段、見ないようにして生きている自分や他人の弱さや浅ましさ、人間の“裏”をさらっと見せつけられるような作品群。