水上勉「雁の寺・越前竹人形」
どちらも母の不在、劣等感を抱えた少年という主題があるが、そうした細かいことは抜きにして、物語と哀切な雰囲気に引き込まれた。
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読んだ本の記録。
NHK取材班、北博昭「戦場の軍法会議 ―日本兵はなぜ処刑されたのか」
NHKのドキュメンタリーの書籍版。戦時中の軍法会議についての証言は極めて少なく、関連文書も終戦時に組織的に焼却されてしまったため、残っていない。法務官の生き残りの多くは戦後法曹界のエリートになっていて(このあたりは医学界の闇とも似ている)、口を閉ざしてきた。
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色川武大「怪しい来客簿」
戦前から戦後間もない時期の、社会の片隅のつれづれ。エッセイのような筆致で書かれた連作短編。
これは諦観なのか、寛容なのか。著者のまなざしは冷め切っていると同時に、とても優しい。不器用な自分に限りない劣等感を抱えつつ、それを観察者の冷めた目で見てしまう。屈折した人間だけが持てる温度。
医師の過失に「ミスだとしたら、私はこれまで他人のミスに対して寛大でなかったことは一度もなかった。その基本方針をまげるわけにはいかない」「自分であれ他人であれ、一度ミスをおかしたら、助けてくれるものは何もないのだという現実に誰でも直面してしまう。だから寛大にならざるを得ない」。
ユーモアとともに、著者の人を伝える作品集。
ユージン・オニールの自伝的戯曲。麻薬に溺れる母、卑小な父、自堕落な生活を送る兄、母の麻薬中毒の原因ともなった病弱な弟=作者。四人それぞれが、心の底から人を恨み、自分を憎んでいる。
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