朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 明かされなかった福島原発事故の真実」
原発事故後、政府、自治体、住民の間で情報がいかに伝わらなかったのか。非常に読み応えのある優れた仕事だが、良くも悪くもドキュメンタリー的で、「なぜ」への答えが物足りない面も。SPEEDIがなぜ使われなかったのかと、避難区域設定を巡る経緯については必読。
読んだ本の記録。
村上春樹「ダンス・ダンス・ダンス」
3部作や他の作品は何度か読み返してきたが、この作品はずいぶん久しぶり。
後日譚という自由さからか、登場人物のキャラ作りも含めて、愉悦的とも感じられるほど饒舌な語り口。
これ以前の作品で描かれたぼんやりとした喪失感は、はっきりと死という形で周りにあふれ出す。同時にこれまでディスコミットメントを徹底し、表面的には無感動だった主人公は現実への執着と焦燥感を見せる。
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開高健「夏の闇」
日本でもベトナムでも無い異国の地で、眠り、食、性の描写が続く。
ベトナムが舞台だった「輝ける闇」より文体や思考は濃密になっているのに、そこには生の実感と呼べるようなものがほとんど無い。現実の近さを取り戻すためには、ベトナムに戻るしかないのだろうか。
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ローレンス・ライト「倒壊する巨塔 ―アルカイダと『9・11』への道」
アルカイダのトップ、ビンラディンとザワヒリの人生を幼年時代から追いながら、同時多発テロに至る過程を描く。
イスラム原理主義の誕生から、土建屋の空虚な熱情が先鋭化し、ジハードとしてアメリカに標的を絞るまで。人物に焦点を当てることでハンチントンの「文明の衝突」のような粗雑な理解とは対照的な9・11への道を浮き彫りにしている。
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菊地成孔、大谷能生「M/D ―マイルス・デューイ・デイヴィスⅢ世研究」
圧倒的な分量。講義録だけど、明らかに加筆しまくったと分かる、くどく(ほめ言葉)、濃密な文章。
アンビヴァレンス、ミスティフィカシオン、戯画的なポップさ、革命家ではなくモードチェンジャー、スターへの憧れ、飽きっぽさ。
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