至福千年

石川淳「至福千年」

開国と攘夷に揺れる幕末の江戸で聖教の楽園を築くため、暗闘する千年会。破天荒な人物、自在な展開に最後まで引き込まれる。何よりも古文を思わせる無駄のない流れるような文体。美しい。

世界屠畜紀行

内澤旬子「世界屠畜紀行 THE WORLD’S SLAUGHTERHOUSE TOUR」

アラブから芝浦まで、イラスト付き屠場紀行。

差別や動物愛護など、語ろうと思えばいくらでも語れる題材だけど、過剰な意味付けをせず、シンプルに「大切な、面白い仕事」としていきいきと描いている。
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色川武大「百」

家族との微妙な距離感を描いた短編集。「百」と「永日」は父との、「連笑」は弟との関係、「ぼくの猿 ぼくの猫」にはナルコレプシーで著者が生涯悩まされた幻覚が綴られる。博徒・阿佐田哲也としての無頼のイメージからは遠い、静かで誠実な私小説。

自分に、ここまで真っすぐ自らを見つめることができるだろうか。
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東京大学のアルバート・アイラー ―東大ジャズ講義録

菊地成孔、大谷能生「東京大学のアルバート・アイラー ―東大ジャズ講義録」歴史編&キーワード編

講義録だが、むちゃくちゃ面白い。音源を次から次へと紹介しながら、軽妙な語り口で菊地・大谷史観とも言うべきジャズの歴史を編んでいく。これまで何となく聞いていたジャズが高度な記号性や論理を有し、それが商業性の中でどう変化してきたかがよく分かる。
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いねむり先生

伊集院静「いねむり先生」

出会いによって人は救われる。伝説的な博徒で小説家の色川武大との交流を、静かに、誠実に描いた自伝的小説。

何よりも先生が魅力に溢れている。大人になってもこんな出会いがあるなら、人生は捨てたもんじゃない、そう思える作品。