困ってるひと

大野更紗「困ってるひと」

闘病記ながら、見事なエンターテイメント。

共感できる所もあれば、できない所もあるけど、そんなのは当然のこと。生きることは大変だけど、自分の生きている場所で、自分なりに頑張ろう、そういう気持ちになれる。
“困ってるひと” の続きを読む

どくろ杯

金子光晴「どくろ杯」

絶望的な困窮の中、妻との問題を抱え、長い放浪の旅が始まる。抑揚の無い淡々とした筆致ながら、人の業の深さと生の力強さに溢れている。はっとするような言葉使いも随所に。

「唇でふれる唇ほどやわらかなものはない」

「うんこの太そうな女たちが踊っていた」

銀河ヒッチハイク・ガイド

ダグラス・アダムス「銀河ヒッチハイク・ガイド」

銀河バイパス工事で地球を取り壊され、たった一人の生き残りとして放浪の旅が始まる。

最初から最後まで馬鹿げたエピソードが続くが、随所に皮肉が効いているのが、いかにも英国風。激鬱なロボット、マーヴィンがいい味を出している。

「なんだって土んなかに顔を突っ込んでるんだ?」
「非常に効果的にみじめな気分を味わえるからです」

貧困旅行記

つげ義春「貧困旅行記」

鄙びた温泉地を旅し、侘びしい旅籠で煎餅布団にくるまる。世の中から捨てられたような気持ちになり、そこに安らぎを感じる。タイトルから想像されるような貧乏旅行記ではなく、内容も淡々としているが、この時代の日本を旅してみたかったなと思わせる味がある。

「貧しげな宿屋で、自分を零落者に擬そうとしていたのは、自分をどうしようもない落ちこぼれ、ダメな人間として否定しようとしていたのかもしれない。(中略)自分を締めつけようとする自分を否定する以外に、自分からの解放の方法はないのだと思う」

東京日記 他六篇

内田百閒「東京日記 他六篇」

日常の中にふと現れる幻。何だかよく分からない違和感―百閒の短編は脈絡の無い話ばかりなのに、不思議な魅力がある。

決して奇抜ではなく、西洋風リアリズムの陰に隠れつつも、古典の時代から、現代だと例えば川上弘美につながる様な、日本の伝統的スタイルの気もする。

ヤバい経済学

スティーヴン・D・レヴィット、スティーヴン・J・ダブナー「ヤバい経済学」

経済学の手法を用い、米国の犯罪減少の最大の要因が中絶の合法化であることや、相撲の八百長を統計データを基に証明する。

子供が銃で死ぬリスクより、家の裏のプールで死ぬリスクの方が遙かに高いのに、銃のリスクばかりを気にしてしまう理由など、物事の見方として大変参考になる。
“ヤバい経済学” の続きを読む

類推の山

ルネ・ドーマル「類推の山」

未完でこれほど面白い作品を読んだことが無い。ベスト・オブ・未完小説。

世界の中心にそびえる不可視の「類推の山」。シュールレアリスム小説の傑作とされているが、そんな堅苦しいものではなく、冒険小説として無類の面白さ。物語の魅力が詰まっている。未完なのが残念だけど、未完だからこそ美しいのかもしれない。

あやとりの記

石牟礼道子「あやとりの記」

乞食、隠亡、孤児……“すこし神さまになりかけて”いるひとたちと過ごす、みっちんの四季。

ストーリーらしいストーリーはないけど、一瞬一瞬が魅力にあふれている。この人ほど言霊という言葉が似合う作家はいない。後半の「迫んたぁまになりたい」が胸を打つ。

ヤノマミ

国分拓「ヤノマミ」

南米アマゾンの先住民、ヤノマミ。

生まれた子を精霊としてそのまま天に返す場面に衝撃を受ける。死生観などの価値観は、想像ができないほど我々日本人と隔たっている。それでも同じ様な感情を抱く。それが人らしさなのだろう。
“ヤノマミ” の続きを読む

エレンディラ

ガブリエル・ガルシア=マルケス「エレンディラ」

天使や幽霊船など、あり得ないようなことが自然なこととして起こり、物語が進んでいく。でも世界の見え方としては紛れもない“現実”。

物語をマジックリアリズムとリアリズムに分けて考えるのは、そのどちらに属する作品をも矮小化することになる。