藤沢周平「たそがれ清兵衛」
病に伏せる妻と暮らす「たそがれ清兵衛」ほか、8人の剣士を描いた短編集。どれも短い中にドラマと魅力的な人物が詰まった名品。
ただ、藩のごたごたの中、冴えないと思われていた人物が実は達人で……という構造がすべて同じで、続けて読むとちょっと食傷気味。
城勤めの剣士たちが主人公で、時代物とはいえ、現代に通じる苦悩がある。まさに、「せまじきものは宮仕え」。
読んだ本の記録。
安部公房、ドナルド・キーン「反劇的人間」
安部公房とドナルド・キーンの対談。40年近く前の対談だが、「日本人論」の流行に疑問を呈するところから始まり、古さは感じない。あまりまとまりのない内容だけど、所々に非常に鋭いやりとりがある。
安部の「人間の個性というものを信じない」という言葉や、特殊から普遍に至るという小説手法への疑問、『ゴドーを待ちながら』を例に挙げて物語よりも「時間」の存在を示されることが人間にとって一番心に響くという指摘など、なるほどと思わされた。
文学論では、安部が人物造形などから川端康成の作品を西洋的と感じると語る一方、キーンは逆に、文章や会話、物語の構造などから谷崎の方が西洋的と指摘するのも、それぞれの感性の違いが分かって面白い。
柴崎友香「その街の今は」
何気ない日常を描くという、よくある感じの小説だが、大阪の街に対する愛情に富んでいて読んでいて温かい気持ちになる。それもありがちなデフォルメされた“大阪らしい大阪”ではなく、日本中共通するような都市の情景に、そこで生まれ育ったという愛着を滲ませる。
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