千早茜「魚神」
どこの国の、いつの時代かも分からない掃溜めのような島で互いを心の拠り所に暮らしていた姉弟。伝説の遊女の名を継ぐ白亜、心を見せないスケキヨ。巨大魚と遊女の伝説。所々既視感はあるものの、デビュー作でこれだけ世界観を作ることができるのはかなりの大器を感じさせる。連作の絵画、あるいは耽美的な映像作品を見たような読後感。
読んだ本の記録。
井上ひさし、平田オリザ「話し言葉の日本語」
井上ひさしと平田オリザの対談集。もとが雑誌連載のせいか、広く浅くという感じだけど、二人とも言葉にこだわってきた劇作家だけに色々と気付かされる視点が多い。
小説は個人とともに誕生し、古来からの演劇が表現できなかった緻密な表現を可能にした、その上で現在再び小説では表現できないものが出てきている……という指摘は、優れた小説家でもある井上ひさしが感じていた現代文学の行き詰まりが伺えて興味深い。
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野村進「島国チャイニーズ」
劇団四季からチャイナタウン、山形の農村の中国人妻まで、在日華僑、華人の話を聞いて歩く。
つい、「在日」として韓国・朝鮮系と(しばしばマイナスイメージで)ひとくくりに考えがちだが、日本での生活への満足度や、国籍、中国名へのこだわりの薄さなど実態は大きく異なる。雑誌連載がもとになっているためか、それぞれの話が少し浅いけど、在日チャイニーズの多様さに気付かされる。
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斎藤美奈子「冠婚葬祭のひみつ」
冠婚葬祭が現在の形になった歴史を取り上げた第1章が面白い。いかにも伝統っぽい神前式も、大正天皇の御婚儀を経て神社が結婚ビジネスに参入したことに始まる。葬儀も現在の告別式のルーツは中江兆民。どちらもせいぜい100年の歴史しかない。
桃と端午の節句が下火になる一方、宮参り、お食い初め、一升餅などのイベントの実施率は最近の方が高いというのも面白い。住宅事情や経済状況で、行いやすいイベントへと「伝統行事」は移っていく。
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