旅行人166号(インド、さらにその奥へ、1号だけ復刊号)

「旅行人166号(インド、さらにその奥へ、1号だけ復刊号)」

6年前に休刊した「旅行人」がまさかの復刊!
1号だけとはいえ、非常に読み応えのある内容でうれしい。

特集は「旅行人」の、そして多くのバックパッカーにとっての原点とも言うべきインド。と言っても「旅行人」らしく、取り上げられているのはディープな地域ばかり。先住民族ミーナーの壁画を探すラージャスターンの旅から、タール砂漠に住むトライブの世界、アルナーチャル・プラデーシュ州のアパタニ族の村、インド文化圏の外に位置するナガランド、などなど。
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小説「聖書」

ウォルター・ワンゲリン 小説「聖書」旧約篇上新約篇

  

神学者でもあり、作家でもある著者が、聖書の膨大なテキストを小説の文体で書き下ろした。

天地創造、神とアブラハムの契約、モーセの出エジプト、ダビデとソロモンの時代、バビロン捕囚。旧約聖書に書かれたエピソードの一つ一つは多くの人が知っているだろうが、全体を通読したことがある人はキリスト教徒やユダヤ教徒以外では稀だろう。膨大な断片の集まりである聖書を、神学者としての緻密な解釈に立脚しつつ、原典に忠実に、現代の読み物として蘇らせた著者の仕事はまさに偉業と言える。
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世界天才紀行

エリック・ワイナー「世界天才紀行」

「その国で尊ばれるものが、洗練される」

“天才”は不規則に生まれるのではない。特定の時期に、特定の場所に相次いで現れる。

アテネ、杭州、フィレンツェ、エディンバラ、カルカッタ、ウィーン、そして、シリコンバレー。

なぜ、その土地に天才が生まれたのだろう。紀元前のアテネも、ルネサンス前夜のフィレンツェも、当時の世界一の大都市でも先進都市でもなかったし、周辺の都市にすら後れを取っていた。18世紀のエディンバラや19世紀末のカルカッタは言うまでもない。シリコンバレーなんて、田舎のほぼ何もない土地に生まれた。

それぞれの土地でなぜ天才が育ったのか。その答えを求めて著者は旅に出る。
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日本語のために 池澤夏樹=個人編集 日本文学全集30

池澤夏樹=個人編集 日本文学全集30
日本語のために

日本語は世界的に見ても非常に多様な表現形態を持っている。

池澤夏樹選の日本文学全集30巻は、文体のサンプル集とでも言うべき内容。祝詞や経文、漢詩から、琉歌(琉球語の定型詩)や、アイヌ語の文章まで。聖書の翻訳や、ハムレットの独白もそれぞれ6種類収録され、日本語の幅の広さがよく分かる。
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好色一代男、雨月物語ほか 池澤夏樹=個人編集 日本文学全集11

池澤夏樹=個人編集 日本文学全集11
好色一代男/雨月物語/通言総籬/春色梅児誉美

江戸文学の豊かさとレベルの高さがよく分かる一冊。

「好色一代男」は“女3742人、男725人”と交わった男、世之介の一代記。7歳から60歳までを1年1話で綴り、1話完結の連載漫画のようなテンポの良さ。世之介、7歳、夏の夜。子守の女中に「恋は闇というのを知らないか」と迫り、10歳で早くも男色に目覚める。後半にいくにつれて徐々にマンネリ化していくのも連載漫画っぽい。 “好色一代男、雨月物語ほか 池澤夏樹=個人編集 日本文学全集11” の続きを読む

平家物語 池澤夏樹=個人編集 日本文学全集09

池澤夏樹=個人編集 日本文学全集09
古川日出男訳「平家物語」

祇園精舎の鐘の声/諸行無常の響きあり/沙羅双樹の花の色/盛者必衰の理をあらはす

冒頭の文章は誰でも知っているのに、ちゃんと平家物語を読み通したことがある人は少ないのでは。古川日出男は壮大な軍記物語を、現代の小説の文体を取らず、あくまで琵琶法師の語りとして現代に蘇らせた。

「祇園精舎の鐘の音を聞いてごらんなさい。ほら、お釈迦様が尊い教えを説かれた遠い昔の天竺のお寺の、その鐘の音を耳にしたのだと想ってごらんなさい。
諸行無常、あらゆる存在(もの)は形をとどめないのだよと告げる響きがございますから」

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池澤夏樹=個人編集 日本文学全集08

池澤夏樹=個人編集 日本文学全集08
日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集

鎌倉時代に成立したとされる「宇治拾遺物語」。煩悩を断ち切るために陰茎を断ち切った、という僧侶が貴族の家を訪れ、証拠として下半身を露出。主の命を受けた小僧が下半身の密林を探ると、刺激を受けたモノが巨大化して噓が露見。という話(「玉茎検知」)があって、高校生の頃に読んで度肝を抜かれたことを思い出す。
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