ブルーシート

飴屋法水「ブルーシート」

現代美術の領域でも活躍してきた飴屋法水の作・演出で、2013年に福島県の高校生によって上演された作品。多くの死と日常の消失を目の当たりにした高校生の“もがき”のようなものが、抽象的な断片の積み重ねと瑞々しい言葉で綴られている。第58回岸田國士戯曲賞受賞作。
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贋作・桜の森の満開の下

野田秀樹「贋作・桜の森の満開の下」

「夢の遊眠社」時代の代表作の一つ。再演を重ね、今年8月には「野田版・桜の森の満開の下」として歌舞伎化もされた。

初演は1989年。贋作(がんさく)ではなく「にせさく」と読む。ただの模倣やパロディーではなく、そこからさらにもう一歩ずれた作品であることの表明だろう。坂口安吾の「桜の森の満開の下」と「夜長姫と耳男」を下敷きとした作品だが、野田秀樹らしい言葉遊びとスピード感溢れる展開で、要約は難しい。
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シラノ・ド・ベルジュラック (光文社古典新訳文庫)

ロスタン「シラノ・ド・ベルジュラック」
渡辺守章訳 (光文社古典新訳文庫)

フランス演劇の代表作の一つで、映画、ミュージカルから翻案まで数多くの派生作品を生んだ傑作。詩人で哲学者、剣士と多才だが、容姿だけに恵まれなかった心優しき主人公シラノ・ド・ベルジュラックのキャラクターがとにかく魅力的。
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温室/背信/家族の声

ハロルド・ピンター「温室/背信/家族の声」

ハロルド・ピンターの戯曲集。難解と言われる作家だが、「背信」は純粋にドラマとして引き込まれる。不倫する男と女、その夫。ほぼ三人芝居で、関係の終わりから始まりまでの場面を時間を遡って見せていく。その過程で、誰がどこまで知っていたのかが次第に明らかになり、人間関係のさまざまな“背信”が浮き彫りになる。

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消失/神様とその他の変種

ケラリーノ・サンドロヴィッチ「消失/神様とその他の変種」

ケラリーノ・サンドロヴィッチの戯曲2本。ちょっとずれたテンポの良い会話に引き込まれる。「消失」は兄弟愛を軸に“消えること”に対する哀愁が全編に満ちた作品。活字で読むと少し感傷的すぎるかもしれないが、生身の役者を思い浮かべながら読むと胸を打つ。「神様とその他の変種」は家族の話。ナンセンスな愛憎が入り乱れて要約不可能。笑いつつ、心が毛羽立つ。作家自身が書いているように別役実的な雰囲気。

テロ

フェルディナント・フォン・シーラッハ「テロ」

注目の作家シーラッハの初戯曲。誰かを助けるために、誰かを犠牲にすることは許されるか。「トロッコ問題」などで知られる古典的な問いかけだが、テロの時代である現代、それは思考実験ではなく、現実の問題になりつつある。
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ゲゲゲのげ/瞼の女

渡辺えり子「ゲゲゲのげ/瞼の女」

「ゲゲゲのげ」は岸田賞受賞作。いじめられっ子の物語に鬼太郎と妖怪の戦いが混ざり合う。特定の主人公を立てるのではなくキュビズムのように多面的に描けないか考えていたと後書きに記しているように、夢のような脈絡のない展開で、次々と別の世界に連れていかれる。夢と同じく要約は難しい。「瞼の女」も同じ。過去、現在、未来、生まれなかったもの、生まれたかもしれないもの、それら全てが渾然と描かれる。

リア王

シェイクスピア全集 (5) 「リア王」 

末娘を勘当し、長女と次女に国を譲った後、二人に国を追放される悲惨な老王の物語。中盤以降の狂気ぶりが凄まじい。因果応報という言葉だけでは表現できない人間の愚かさと運命の不条理。「オセロ」などとともに四大悲劇とされるが、スケールの大きさは別格。