フリークス

綾辻行人「フリークス」

精神病棟を舞台とした短編ミステリー3本。構成が見事で、あっという間に読み終えられた。ただ舞台が舞台だけに、どんでん返しの意外性が薄く、著者本人があとがきで書いているように、やや若書きという印象も。

倒錯のロンド

折原一「倒錯のロンド」

叙述トリックもの。盗作を巡る倒錯。引き込まれてあっという間に読んでしまったし、凝った構成だけど、叙述トリックそのものは中心となる語り手の設定が反則というか、個人的には肩すかし気味。

ツリーハウス

角田光代「ツリーハウス」

家族の物語。満州で出会った祖父と祖母は生きるために戦争から逃げた。敗戦後、戻る場所もなく、根を失ったままバラック街の一角で中華料理屋を始める。子供たちが育ち、孫たちが生まれ、それぞれに不器用に何かを失い、何かを得ながら生きていく。時に迷い、時に「大丈夫だ」というよく分からない感覚に流され、子供は大人に、大人は老人になっていく。そうしていつの間にか、根を失ったはずの自分たちの人生が根を張っていることに気付く。
“ツリーハウス” の続きを読む

死んでいない者

滝口悠生「死んでいない者」

通夜の夜。普段を滅多に顔を合わせない親戚まで、微妙な距離感を持った人々が一カ所に集い、それぞれの人生を思う。といっても一人一人の物語に深く分け入っていくわけではなく、それぞれの頭をよぎった光景をさらっと綴っていく。語りの視点がふわりふわりと移動していき、不思議なリズムを持った文体。この作品そのものはそれほど面白くもないし、やや習作的な雰囲気を感じるが、実力の感じられる書き手で今後の作品に期待大。

決壊

平野啓一郎「決壊」

「悪魔」を名乗る人物からのメッセージが添えられたバラバラ死体が各地で見つかる。悪魔は社会からの「離脱」を呼びかけ、無差別殺人が連鎖する。中盤まではミステリー風の物語展開だが、ミステリーに期待するような種明かしは訪れない。過剰な会話など、むしろドストエフスキー的な思想小説。登場人物一人一人の内面を多視点で徹底的に掘り下げていく叙述は最近の作家では珍しい。
“決壊” の続きを読む

中上健次 電子全集

中上健次 電子全集

待ちに待った電子全集の刊行が始まった(現在3巻まで)。

高校時代に当時手に入る作品は一通り読んだものの、絶版や文庫未収録などで未読の作品も結構あるため嬉しい。巻末の担当編集者や中上紀による文章は短いながらも必読の内容。中上の人物像などはそれなりに知られてはいるものの、身近な人々の文章でそれを読むとやはり生々しい。

担当編集者として「岬」を生みだした高橋一清氏に「初めて俺を人間あつかいしてくれた」と泣きじゃくったことや、芥川賞受賞直後、中上の暴力が原因で家族が家を出ていたことなど。
“中上健次 電子全集” の続きを読む

生きてるものはいないのか

前田司郎「生きてるものはいないのか」

日常を描きながら、登場人物が理由も無く次々と死んでいく。中盤以降は延々と「死に方」だけが描かれる。とはいえ、悲愴的なドラマではない。最後の言葉は中途半端で、誰もが見せ場など無くあっさり死んでいく。死体は舞台上に積み重なっていく。

何となく、人は自分の死に方は選べる気がしている。ここに描かれる死は例外無く滑稽だが、だからこそ、死に方は選べないという事実を突きつけられる。