西南シルクロードは密林に消える

高野秀行「西南シルクロードは密林に消える」

忘れ去られ、密林に消えた西南シルクロード。中国からビルマに密入国し、カチンやナガのゲリラの手引きでジャングルを横断し、インドへ。あまりに無謀な旅なのに、深刻さや悲壮感があまり無いのが著者らしい。
“西南シルクロードは密林に消える” の続きを読む

エレクトラ ―中上健次の生涯

高山文彦「エレクトラ ―中上健次の生涯」

「これを書かなければ生きていけないというほどのいくつもの物語の束をその血のなかに受け止めて作家になった者がどれほどいるだろうか」

書くべきものは山ほどあった。それでも、書き上げるまでには何年もかかった。
“エレクトラ ―中上健次の生涯” の続きを読む

逃亡

吉村昭「逃亡」

ふとしたきっかけで軍用飛行機を爆破し、航空隊を脱走する運命を背負った男の記録。

飯場を転々としながら終戦を迎え、その後も身を隠すように暮らし続ける。戦時下、反戦主義者でもない普通の人間が少しずつ追い詰められていく様子を、反戦でも無い、愛国でも無い、思想をはさまない淡々とした筆致で綴っていく。その静かな文章が、状況に翻弄される人生の脆さを際立たせている。

人の意志よりも、些細な事や社会の状況が選択肢を奪っていく。

ゼロ! こぎゃんかわいか動物がなぜ死なねばならんと?

片野ゆか「ゼロ! こぎゃんかわいか動物がなぜ死なねばならんと?」

「明日の処分、本当になかとですか」

犬の殺処分ほぼゼロを達成した熊本市動物愛護センター。年間約700頭が週2回に分けてガス室に送られていた00年。引き取りを依頼する無責任な飼い主の説得と、収容された犬のトレーニング、譲渡先探しの徹底を経て、ガス室は稼働しなくなった。
“ゼロ! こぎゃんかわいか動物がなぜ死なねばならんと?” の続きを読む

貧乏人の経済学

アビジット・V・バナジー、エステル・デュフロ「貧乏人の経済学 ―もういちど貧困問題を根っこから考える」

マクロな“貧困の経済学”ではなく、ミクロな“貧しい人の経済学”。

極めて貧しい人たちが、なぜ事業を営むのか。なぜ事業が拡大し得ないのか。食料に、蚊帳に、教育に費やすコストが予想より低くなるのはなぜなのか――。
“貧乏人の経済学” の続きを読む

さいごの色街

井上理津子「さいごの色街」

遊廓の雰囲気を今なお残す大阪・飛田新地。文章の端々に、興味本位、という執筆動機が滲むが、取材はおろか、見学に立ち入ることも憚られる土地だけに、よくここまで書けたなと思う。取材対象を騙し討ちにする不誠実な取材過程も、売春の是非に対する自らの迷いも明らかにしつつ、飛田に生きる人びとの話を聞いて回った記録は読み応えがある。

プロメテウスの罠2

朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠2」

良くも悪くもドキュメンタリー的で物足りない部分もあった1巻より、再処理の問題や気象庁の津波予測のミスなど、新聞らしい調査報道が増えた。英仏を通じた核燃料再処理も総括原価方式のような仕組みでコストが肥大化し、関係会社の間で環流して電気代に上乗せされている。下北半島の開発史も興味深い。福島の浜通りも同じ構図だけど、夢が先行した開発はやがて行き詰まり、歪んでしまう。

人間はどこまで耐えられるのか

フランセス・アッシュクロフト「人間はどこまで耐えられるのか」

人間はどこまで高く、深く、暑く、寒く、速く…。

タイトルはともかく、内容は硬派な生理学の本。人間の挑戦と科学者による検証の歴史を振り返りつつ、身体の仕組みを、減圧症や高山病、熱中症の仕組みなどを交えて詳しく解説し、人間の限界を探る。
“人間はどこまで耐えられるのか” の続きを読む

被差別の食卓

上原善広「被差別の食卓」

フライドチキンからあぶらかすまで世界の“ソウルフード”を巡る旅。差別されているから、捨てられるものを使った料理を生み出す。忌避されるものを食べるから、差別される。新書だし、食べ歩きルポで内容的な深みはないけど、著者自身が被差別部落出身ということもあり、実体験を交えた語りが興味深い。興味本位ではなく、共感に満ちた内容。