廃用身

久坂部羊「廃用身」

高齢者医療に携わる主人公の青年医師は、ある日、麻痺などで回復の見込みが無い部位を切断する「ケア」を思いつく。患者にとっては、不随意運動や痛みから解放され、周囲の人間にとっては介護の負担が軽減されるという狙いだが……
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吉原手引草

松井今朝子「吉原手引草」

吉原で起きた花魁失踪事件を巡って、関係者一人一人の語りで徐々に真実を明らかにしていく。ミステリータッチの物語の面白さもさることながら、タイトルに「手引草」とあるように、語りを通じて、吉原の仕組みから作法まで分かるよう書かれている構成がみごと。内儀、番頭、新造、幇間、芸者、女衒――といった立場の登場人物の口から語られるのは、初会や水揚げ、身請けなどまさに一から十まで。
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ネコババのいる町で

瀧澤美恵子「ネコババのいる町で」

奔放な母に捨てられるようにして叔母と祖母のもとに預けられ、二人と隣人のネコババらに見守られて少女は育つ。力まず軽やかな筆で、幼少期の思い出の断片を綴っていく。自分とは全く違う境涯の主人公だけど、不思議と共感し、引き込まれる。こうした作品は意外と少ない。
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花まんま

朱川湊人「花まんま」

少し不思議な体験の中に、人生の悲哀を滲ませた短編集。舞台は昭和の大阪の下町。子供の視点が瑞々しく、どこか懐かしい。表題作や「トカビの夜」、「送りん婆」など、甲乙付けがたく、短編小説の見本のような珠玉の6編。

人体模型の夜

中島らも「人体模型の夜」

中島らもによるホラー短編集。短い中に、ぞっとするオチを盛り込んだ秀逸な作品群。型破りな私生活で知られる人だけど、「ガダラの豚」のようなB級エンタメ(良い意味で)から、私小説的な作品、こうしたホラー、おおらかなエッセイまで、作家としての多才ぶりにも驚かされる。生きて老いを迎えていたら、どんな作品を書いただろう。

パレード

吉田修一「パレード」

ルームシェアする男女4人と、新たにそこに加わった少年。5人の物語が順に紡がれていく。心地よい空気に、だらだらといつまでも読んでいたい気がしてしまうけど、そんな雰囲気も一皮めくれば見たくない現実が。でもそれを分かった上で日常は続いていく。寒々しいラストは衝撃的だが、現実の人間関係も大なり小なりこんな感じかもしれない。

何者

朝井リョウ「何者」

就活を物語の中心に据えた、珍しいけどとても現代的な小説。SNSの流行で、誰もが自分を短いキーワードの羅列で“何者か”に見せようとする現代をユーモアを交えつつリアルに描写している。頑張っている自分を発信し続けずにはいられない人、キラキラした単語を散りばめて意識の高い自分を演出する人、それを冷静に観察して自分は違うと優越感に浸る人。それぞれに対する憎しみと共感が描かれていて、誰もが読んでニヤリとしつつ、どこかチクリとも感じるのでは。