安部公房「笑う月」
夢のスケッチ。小説とエッセイという違いはあれ、同じ夢でも漱石の「夢十夜」や百閒の「冥途」とは随分雰囲気が異なる。夢を現実の言葉と理性で語ろうとした安部公房の洞察とユーモア。ただの不条理文学ではない公房の創作スタイルがよく分かる一冊。
“当然だろう、弱者への愛には、いつだって殺意が込められている”
読んだ本の記録。
著者の最後の長篇にして、到達点。他者を求め、他者に遠慮し、他者を諦め、それが独善であることに気づく。幻覚、幻聴に悩まされ、正気と狂気の間を彷徨う男の記録。
「自分は誰かとつながりたい。自分は、それこそ、人間に対する優しい感情を失いたくない―」
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色川武大「百」
家族との微妙な距離感を描いた短編集。「百」と「永日」は父との、「連笑」は弟との関係、「ぼくの猿 ぼくの猫」にはナルコレプシーで著者が生涯悩まされた幻覚が綴られる。博徒・阿佐田哲也としての無頼のイメージからは遠い、静かで誠実な私小説。
自分に、ここまで真っすぐ自らを見つめることができるだろうか。
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