ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい

大前粟生「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」

表題作は、ぬいぐるみサークルの男女を中心とした物語。主人公は人を傷付けることを病的なまでに忌避し、他者の事情に踏み込むことに対して極めて臆病。恋バナに乗れず、男同士の露骨な会話に生理的な嫌悪感を抱く。自分が男であるというだけで、加害者の立場にいると気にしている。

こういう感性の人は昔からいただろうが、その消極的な“優しさ”は非常に現代的だと感じる。令和文学史、あるいは2020年代文学史が語られる時に、その初めに登場する作品になるかもしれない。
“ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい” の続きを読む

禅銃(ゼン・ガン)

バリントン・J・ベイリー「禅銃(ゼン・ガン)」

「カエアンの聖衣」が非常に面白かったので、同じくコアなファンの多い「禅銃」も。

反乱で崩壊に危機に瀕した帝国、他の宇宙からの干渉、究極の戦士「小姓」、小さくも強力な兵器「禅銃」――など、SFやファンタジー好きの心をくすぐる設定盛りだくさん。
“禅銃(ゼン・ガン)” の続きを読む

ヒッキーヒッキーシェイク

津原泰水「ヒッキーヒッキーシェイク」

引きこもりたちが、変わり者のカウンセラーの呼びかけで、「不気味の谷」を超えたバーチャルアイドル創作のプロジェクトに参加する。

荒唐無稽だが、決してスケールが大きいわけでも無い。それでもどこか惹かれる。不思議な手触りの小説。
“ヒッキーヒッキーシェイク” の続きを読む

希望の国のエクソダス

村上龍「希望の国のエクソダス」

「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない」

景気の停滞が続き、国際金融資本の食い物にされる日本。集団不登校となった中学生たちがインターネットを駆使したビジネスを始め、国家から独立した集団に育っていく。
“希望の国のエクソダス” の続きを読む