池澤夏樹=個人編集 日本文学全集10

池澤夏樹=個人編集 日本文学全集10
能・狂言/説経節/曾根崎心中/女殺油地獄/菅原伝授手習鑑/義経千本桜/仮名手本忠臣蔵

池澤夏樹編集の日本文学全集。収録作のセンスも光るが、何より古典の現代語訳者のセレクトが面白い。町田康の宇治拾遺物語、古川日出男の平家物語、角田光代の源氏物語など、組み合わせを聞いただけで、小説好きなら手に取らずにはいられない。

この10巻は能・狂言に説経節、浄瑠璃という芸能分野の作品が収められている。今でこそ馴染みが薄れた作品群だが、どれも中世から江戸時代にかけて広く知られ、日本人の心性を作ってきた物語として必読(教科書に載っているような古典よりずっと影響力があっただろう)。何より「女殺油地獄」の現代性や「菅原伝授手習鑑」「仮名手本忠臣蔵」の構成の妙など、決して古びてなく、純粋に読み物として引き込まれる。訳のレベルも高く、謡い、語られるための曲をどう現代の散文に訳すかに作家の個性がはっきりと出ていて面白い。
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桂春団治

富士正晴「桂春団治」

戦前の落語界で一世を風靡した桂春団治の評伝。上方落語を巡る状況は今に至るまで時代とともに目まぐるしく変わっており、戦前と刊行(1967年)当時のそれぞれの空気が感じられて興味深い。
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天才と名人 中村勘三郎と坂東三津五郎

長谷部浩「天才と名人 中村勘三郎と坂東三津五郎」

天才・中村勘三郎と、名人・坂東三津五郎。同い年で幼少期から切磋琢磨し、歌舞伎界の次代を担うことが期待されながら夭逝した二人。歌舞伎界屈指のサラブレッドの血筋に生まれ、六代目菊五郎と初代吉右衛門の芸を継ぐ勘三郎は、幼い頃から天才であることを求められてきたのだろう。一方、脇役の祖父と父の下に生まれた三津五郎は、守田座座元の系統に連なる矜持を持ちながら、芸域を広げて名人としての評価を確立していく。著者とのプライベートなやりとりを交えつつ、二人の生涯が交互に綴られている。天才と名人の芸だけでなく人柄も伝わってくる良書。

染五郎の超訳的歌舞伎

市川染五郎「染五郎の超訳的歌舞伎」

歌舞伎入門というよりは、名作、新作のあらすじ解説と、それぞれの演目や役に対する思いを綴ったもの。これほど分かりやすい歌舞伎本は無いと言っていいくらい読みやすい。お芝居ごっこをしていた幼少期の思い出から、劇団☆新感線への客演、思春期の妄想が結実した新作歌舞伎の話まで。自ら歌舞伎が好きなのが弱点と言うくらい、歌舞伎にまっすぐ育ってきた人柄が伝わってくる。

恋川

瀬戸内晴美「恋川」

昭和を代表する文楽人形遣いの一人、桐竹紋十郎の生涯を縦軸に、男の芸の世界を描きつつも、基本的には著者らしい女の物語。 紋十郎本人の女出入りに、その弟子、さらに語り手の友人の不倫関係が重なって綴られる。これら全てが、浄瑠璃に語られる男と女の物語の繰り返しにも感じられる。
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大向うの人々 歌舞伎座三階人情ばなし

山川静夫「大向うの人々 歌舞伎座三階人情ばなし」

劇場の三階席後方から声をかける「大向こう」。静岡から上京した著者は大学時代に歌舞伎にはまり、自らも大向こうになる。タイミング良く声をかけるには話の筋を覚えているだけでなく、義太夫や長唄の知識も不可欠。それは趣味というより一つの芸、生き様に近い。
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坂東三津五郎 歌舞伎の愉しみ

坂東三津五郎「歌舞伎の愉しみ」

坂東三津五郎の聞き書き。初心者向けの歌舞伎入門や好事家向けの芸談はたくさんあるが、歌舞伎を多少なりとも見たことがある“中級者”向けの本は少ない。その層を対象としており、演目ごとの工夫や先人の思い出など、分かりやすく内容も充実。歌舞伎ファン必読。
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