井上靖「天平の甍」
日本仏教の興隆期、命がけで唐に渡った留学僧と、戒律を日本にもたらした鑒真。淡々とした筆致で、歴史の中の人間を描く。
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読んだ本の記録。
織田作之助「夫婦善哉 完全版」
商家のぼんぼんの駄目男、柳吉と、勝ち気で一途な元芸者の蝶子。商売を始めても柳吉が放蕩して使い果たしてしまい、生活は何度も行き詰まる。どうしようも無い話が延々と続いていくのに、なぜかとても魅力的。終盤の「一人より女夫(めおと)の方が良えいうことでっしゃろ」の台詞がぐっとくる。
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ラインホルト・メスナー「ナンガ・パルバート単独行」
8000m峰で人類初のソロを達成したメスナー。登攀のドキュメントというより、独りであることについての内省的な問いが延々と続く。
なぜ山に向かうのか、孤独がいつ恐れから力に変わるのか―。
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佐野真一「宮本常一の写真に読む失われた昭和」
日本中の村という村を歩き、十万点の写真を残した宮本常一。民家の軒先や畑、林……写真家ではなく、あくまでメモとして写したものなので「写真」としての質が高いわけではないが、それらの写真は土地の人々がどんな生活をし、自然の中でどう労働してきたのかを雄弁に伝えている。
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中上健次「千年の愉楽」
“死んだ者や生きている者らの生命があぶくのようにふつふつと沸いている”路地の産婆、オリュウノオバと若くして死ぬ中本一統の澱んだ血。改行や句読点が少なく読誦のように紡がれる文章。小説としてのコンセプトは紀州版「百年の孤独」だろうけど、文章の端々から土地の匂い、“夏芙蓉”の香りが漂ってくるよう。
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ガブリエル・ガルシア=マルケス「族長の秋」
独裁者の物語。「百年の孤独」と同じように神話的だが、なんと饒舌なのだろう。「われわれ」から始まり、一人称も時間軸も混沌として、誰が話しているのか分からない文体。改行も無く、ブラックで超現実的なエピソードが延々と続く。濃密で、やかましいくらいなのに、そこには強烈な孤独が滲む。
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石井光太「アジアにこぼれた涙」
「旅行人」に連載されていたもの。アフガントラックの絵師、スラムの少年の夢、日本人に捨てられたジャカルタのニューハーフ……。最近相次いで本を出している著者だが、これは特に思い入れのあるエピソードを集めたのだろう。どれも非常に強い印象が残る。
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