兵隊先生 沖縄戦、ある敗残兵の記録

松本仁一「兵隊先生 沖縄戦、ある敗残兵の記録」

敗戦間近の沖縄。部隊でただ一人生き残った兵士は、ある家族に助けられ、沖縄県民と身分を偽って、米軍が設けた避難民キャンプの教師になる。

沖縄に送られた日本兵が何を思ったのか。ひとりの“兵隊さん”と人々がどう関わったのか。
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ヘヴン

川上未映子「ヘヴン」

中学を舞台に、いじめを取り上げたストレートな小説。この歳になったから平気で読み進められるけど、なかなかきつい小説。

それぞれのいる立場は偶然に過ぎなくて、選べる行為もあれば、選べない行為もある。いじめのシーンは執拗で、単調で、戯画的でもある。でも、いじめというのは外から見ればそういうものなのだろう。

西洋中世の罪と罰 亡霊の社会史

阿部謹也「西洋中世の罪と罰 亡霊の社会史」

粗野で生者に災いをなす死者は、キリスト教と共に、生者に助けを求める哀れな死者へイメージを変えた。アイスランド・サガなどからの引用で古代ゲルマンの世界観を説明しながら、キリスト教がどう受容されていくのかを描く。
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第七官界彷徨

尾崎翠「第七官界彷徨」

これまた不思議な小説。

少女と兄2人と従兄との共同生活の物語。誰もが誰かに失恋している。

“第七官”に届く詩を書きたいとか、蘚の恋のために部屋で肥やしを煮るとか、少女漫画のような雰囲気と、シュールで前衛的な雰囲気、切ない叙情的な雰囲気とが混ざり合って、最後まで読んでも結局良くわからないまま。仮名遣いとか作中に出てくる品を除けば、いつの時代の作品か全く想像ができそうにない。
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地図から読む歴史

足利健亮「地図から読む歴史」

地形や地名に残された微かな意志の断片をもとに歴史を読み解く歴史地理学のエッセンスが詰まった一冊。

郡境がなぜ今のように定まったのか、信長がなぜ安土に城を築いたのか、飛鳥をあすかと読む理由は……。本当に面白くて刺激的な分野。
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つなみ 被災地の子どもたちの作文集

「つなみ 被災地の子どもたちの作文集」

被災地の子供の作文集。吉村昭の「三陸海岸大津波」に収録された当時の作文と比べると、文章のレベルは高くないし、読み進めるのは結構苦労する。それでも、子供たちがあの日何を見たのか、何が記憶に残っているのか、何を語りたい、語りたくないのかが伝わってくる。

何より印象に残ったのが、ほとんどの子がボランティアなどで避難所を訪れた人たちや支援物資への感謝の言葉を述べ、前向きな気持ちを綴っていること。災害時に“本当に必要な支援”は難しい。ただ、子供たちにこうした思いを持ってもらうためだけでも、何かをする意味があると思う。

宵山万華鏡

森見登美彦「宵山万華鏡」

タイトル通り、宵山のにぎわいの中で起こる不思議な出来事が万華鏡のようにくるくると綴られていく連作短編集。幻想的な話、馬鹿げた話が混ざり合って、宵山の雑踏の中に自分も身を置きたくなる。