虫喰仙次

色川武大「虫喰仙次」

小説には作家のさまざまなコンプレックスが書かれ、あるいは滲み出ている。人に理解されない劣等感を抱えるということは、非常に孤独なことだ。だからこそ、その複雑な感情を作品の中に見つけられることは読書の大きな効用の一つでもある。

表題作は「小説 阿佐田哲也」にも登場した男の話。博奕仲間で、会社での出世競争に敗れた男の半生を通じて、著者らしい社会観が綴られている。
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密林の語り部

バルガス・リョサ「密林の語り部」

ペルーの作家、バルガス・リョサの代表作の一つ。都会の生活と出自を捨て、密林の語り部となって新たな人生を生きることになった青年を巡る物語。私小説風、あるいはノンフィクション風の硬質な文体で語られる書き手と青年の思い出話と、語り部による脈絡のない神話、密林の世間話が交互に綴られる。
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「新しき村」の百年 〈愚者の園〉の真実

前田速夫『「新しき村」の百年 〈愚者の園〉の真実』

恥ずかしながら、「新しき村」が今も残っていることを最近まで知らなかった。

武者小路実篤の「新しき村」は、文化的で個人が尊重される理想の共同体を掲げ、1918年に宮崎県の山中に開かれた。共有財産・共同作業で生計を立て、余暇を学問や芸術などに使うことを目指した村は、運営が軌道に乗り始めたタイミングでダムに一部が沈むことになり、39年に埼玉県毛呂山町に移転。戦後もその取り組みは続き、今年で100周年を迎える。
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犬はいつも足元にいて

大森兄弟「犬はいつも足元にいて」

兄弟作家のデビュー作。文藝賞受賞作。共作の成果だろう削ぎ落とした文体で、離婚した両親、粘着質の友人との関係を軸に、思春期の難しい感情を浮かび上がらせている。

タイトルからは、ほのぼのとした日常系をイメージするが、全編を通して不穏な空気が漂い、物語は明確な説明がないまま終わりを迎える。
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だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人

水谷竹秀「だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人」

バンコクにある日本企業のコールセンターで働く人々を取材したノンフィクション。

2000年代に入ってから、日本企業が人件費の節約のため、コールセンターをバンコクに移すケースが増えたという。そこで働くのは日本からタイに渡った30代、40代を中心とした男女。日本に居場所がなかったと語る彼らの半生を通じて、現代の日本社会の生きづらさが浮き彫りになる。
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風の歌を聴け

村上春樹「風の歌を聴け」

「羊をめぐる冒険」以降の作品は時々読み返してきたが、デビュー作である「風の歌を聴け」を開くのはずいぶん久しぶり。

1979年発表。初期の作品に共通する「僕」と「鼠」のひと夏の物語で、著者が20代の最後に書いた感傷的な作家宣言とも言える作品。処女作にはその作家の全てが詰まっているとよく言われるが、その言葉通り、冒頭の文章には著者の全ての作品に共通する姿勢が刻まれている。

「今、僕は語ろうと思う。(中略)うまくいけばずっと先に、何年か何十年か先に、救済された自分を発見することができるかもしれない」
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信用の新世紀 ブロックチェーン後の未来

斉藤賢爾「信用の新世紀 ブロックチェーン後の未来」

ブロックチェーンの技術がもたらす社会経済の未来像。それはデジタルマネーの普及や、法定通貨が仮想通貨に置き換わるという単純な話ではない。著者は貨幣経済が衰退し、新しい形の信用経済が世界を覆っていくだろうと予見する。その際、消費者と生産者の区別はなくなり、人工知能の発達、シェアリングエコノミーの普及と相まって、「貨幣」「専門分化」「国家」は三つ巴で存在感を低下させていくという。
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