夫の不倫をきっかけに精神に異常を来し、身体の巨大化が始まった妻との日々。
およそ人間とは思えないサイズまで肥大化していくという非現実的な設定だが、一人称の筆は、その妻との生活の苦労を淡々と、グロテスクに綴っていく。
“臣女” の続きを読む
読んだ本の記録。
夫の不倫をきっかけに精神に異常を来し、身体の巨大化が始まった妻との日々。
およそ人間とは思えないサイズまで肥大化していくという非現実的な設定だが、一人称の筆は、その妻との生活の苦労を淡々と、グロテスクに綴っていく。
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コンゴで幻獣を探し、東南アジアのアヘン栽培村に住み込み、無政府状態のソマリアを旅する。規格外の旅を軽やかな筆で記してきた高野秀行が、日本で知り合った異国からの友人との思い出を綴ったエッセイ集。
BUTOH(舞踏)に憧れ、自分探しの果てに日本にたどり着いたフランス人から、出稼ぎのペルー人、故国を追われたイラク人まで。登場する人々それぞれのエピソードを通じて、東京はトーキョーに姿を変え、日本の生きづらさも、生きやすさも、改めて浮かび上がる。体当たりのルポとは違う味わいのある“世話物”の一冊。
“異国トーキョー漂流記” の続きを読む
2017年に読んだ本は124冊(前年比6↓)、4万2516ページ(同1137↓)。
まずは何といっても池澤夏樹編の日本文学全集の新訳シリーズ。
池澤夏樹は刊行に当たっての「宣言」で「われわれは哲学よりも科学よりも神学よりも、文学に長けた民であった」と記しているが、その言葉通り、現代作家の手で新たな命を吹き込まれた作品群の多彩さに驚かされた。
“2017年まとめ” の続きを読む
池澤夏樹編の日本文学全集。第1巻では編者自ら古事記の新訳に取り組んだ。
古事記に関しては、石川淳の「新釈古事記」が素晴らしく、流麗で格調高い文章と読みやすさを両立していて何度読んでもため息が出てしまう。ただ、かなり言葉や要素を補っているため、現代語訳というよりは石川淳の作品と呼んだ方が相応しい。
池澤夏樹は本文を加筆することは極力避け、ページ下部に膨大な注釈を付けた。このことによって、神や人の名前の列記と、物語に挿入された数々の歌が大半を占める原典の構成がよく分かるようになった。特に名前の列記について池澤訳はこだわりを見せ、改行などで非常に見やすく並べている。
“古事記 池澤夏樹=個人編集 日本文学全集07” の続きを読む
池澤夏樹=個人編集 日本文学全集07
枕草子/方丈記/徒然草
「山が崩れて、川を埋めた。平らなはずの海が、斜めに突き刺さるように、陸を襲った。(中略)震災の直後、人びとは、少し変わったように見えた。目が覚めた。まったくどうしようもない社会だったんだ、といい合ったりしていた。おれたちは、欲に目がくらんでいたんじゃないか、とも。そう、人も社会も、震災をきっかけにして変わるような気がしていた。だが、何も変わらなかった。時がたつと、人びとは、自分がしゃべっていたことをすっかり忘れてしまったのだ」
この「震災」は、今から800年以上前に起きた元暦の地震(文治地震)のこと。
池澤夏樹編の日本文学全集。7巻は三大随筆の現代語訳。酒井順子訳「枕草子」、高橋源一郎訳「方丈記」、内田樹訳「徒然草」。優れた訳文によって、三者三様の雰囲気がよく出ており、清少納言、鴨長明、吉田兼好というのはこういう人だったんだなあということがよく分かる。
“枕草子/方丈記/徒然草 池澤夏樹=個人編集 日本文学全集07” の続きを読む
映画というより映画館にまつわるエッセイ集。銀幕に憧れて育ち、銀座文化劇場(現シネスイッチ銀座)でもぎりのアルバイトを7年間していた著者の映画愛と映画館愛にあふれた一冊。もぎり時代の思い出を交えつつ、旅先で映画館を訪ねた際のエピソードなどが軽妙な文章で綴られる。
“もぎりよ今夜も有難う” の続きを読む
飴屋法水は1961年生まれ。唐十郎の状況劇場を経て劇団グランギニョルを旗揚げし、その後、現代美術の領域に移行して先鋭的な表現を次々と打ち出してきた。95年、珍獣を扱うペットショップを開き、突如表現の場から身を引いたが、近年再び活動を再開。2013年に福島県いわき市の高校生と作り上げた「ブルーシート」は岸田國士戯曲賞を受賞した。
「彼の娘」の“彼”は著者の飴屋法水自身で、“娘”は彼が45歳の時に授かった“くんちゃん”のこと。
大切なもの、大切な人は誰にでもあるが、それは主観的で個人的なものでしかない。著者の思想の根本にあるのが、どんな命も究極的には等価であるということ。娘との日々を書いた喜びに満ちた私小説でありながら、その筆は常に客観的に彼と彼女の関係を綴っていく。
“彼の娘” の続きを読む
十数年ぶりに再読。「路地」という極めて小さな世界を描きながら神話的といわれる中上健次の作品群において、まさに神話の始まりを綴った作品。
「岬」「枯木灘」「地の果て至上の時」三部作の主人公・秋幸の母フサは、兄への憧憬を抱えながら、15歳で故郷の古座を離れて新宮に奉公に出る。勝一郎、龍造、繁蔵の3人の男と出会ったフサは、性を知り、子を産み、母として豊穣な物語の源流となる。
“鳳仙花” の続きを読む
現代美術の領域でも活躍してきた飴屋法水の作・演出で、2013年に福島県の高校生によって上演された作品。多くの死と日常の消失を目の当たりにした高校生の“もがき”のようなものが、抽象的な断片の積み重ねと瑞々しい言葉で綴られている。第58回岸田國士戯曲賞受賞作。
“ブルーシート” の続きを読む
伊豆・湯ケ島で過ごした幼年時代を描いた井上靖の自伝的小説。血の繫がりのない祖母との関係を中心に、死や没落といった人生の悲哀に直面した少年の心の動きや、町の子供へのコンプレックス、離れて暮らす両親への愛憎が瑞々しく丁寧な筆で綴られている。
“しろばんば” の続きを読む