森見登美彦「夜行」
つい読んでしまう作家の一人。饒舌で阿呆な文章が魅力の書き手だけど、この作品は静かな怪奇譚。初期の短編集「きつねのはなし」に近い。「夜行」という連作版画を巡り、身近な人が忽然と消えるなどの不思議な話が登場人物一人一人の口から語られていく。物語を反転させ、余韻を残す最終章がみごと。
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読んだ本の記録。
森見登美彦「夜行」
つい読んでしまう作家の一人。饒舌で阿呆な文章が魅力の書き手だけど、この作品は静かな怪奇譚。初期の短編集「きつねのはなし」に近い。「夜行」という連作版画を巡り、身近な人が忽然と消えるなどの不思議な話が登場人物一人一人の口から語られていく。物語を反転させ、余韻を残す最終章がみごと。
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沢木耕太郎「旅する力―深夜特急ノート」
自伝的エッセイであり、「深夜特急」のこぼれ話を集めた1冊。本編から20年以上を経た08年の刊。どうして旅に目覚めたのかから、初めての一人旅、旅に出る前の仕事、なぜ「深夜特急」を書いたのか――と、あらゆる質問に答えるように、誠実に丁寧に自分を語っている。
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沢木耕太郎「深夜特急6 南ヨーロッパ・ロンドン」
最終巻。長い旅は終え時が難しい。著者は前巻で旅を人生に喩え、何を見ても新鮮な幼年期、青年期から、通り過ぎた景色ばかりが鮮明となる壮年期、老年期があると書いているが、この最終刊に書かれているのはまさに壮年期から老年期。イタリアからフランス南部に入り、旅の最終目的地ロンドンが目の前に迫る中、旅を終える決断を先延ばしにしてスペインへ。イベリア半島を横断し、その果てのサグレスで、ふっと「これで終わりにしようかな」という瞬間が訪れる。
6巻を一気に読み終え、自分も旅をしたような心地よい疲れがある。読んで面白い旅行記は他にもあるけど、この読後感はあまり無い。
沢木耕太郎「深夜特急5 トルコ・ギリシャ・地中海」
五巻はトルコからギリシャへ。アジアが終わり、同時に旅の終わりが近づいている――あるいはもうほぼ終わってしまったという一抹の寂しさが文章に滲む。
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沢木耕太郎「深夜特急4 シルクロード」
四巻はなんと言ってもアフガニスタンと革命前のイランの様子が書かれているのが面白い。まだ日本人旅行者は多くない時代だが、ヒッピーが世界中を旅し、カトマンズやバラナシのように東西を行き来する旅人の逗留地となっていたカブール。都会の空気が漂うテヘラン。この時代にこの地域を旅してみたかった。
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沢木耕太郎「深夜特急3 インド・ネパール」
三巻はインド横断とカトマンズ。70年代当時の混沌としたカルカッタやバラナシの様子が伝わってきて興味深い。二巻に続いて印象的なのが、汚い食事や野宿などの一つ一つについて、文句や苦労を語るのではなく、その都度、また一つ自由になれた気がしたと記していること。たしかに自分も安宿であればあるほど、そこに自由を感じていた。場末の宿屋の汚いベッドの上で、あるいは駅の軒下でうずくまって、自分はどこにだって行けるという気がした。
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沢木耕太郎「深夜特急1 香港・マカオ」
以前は旅行記の類はあまり面白いと思わなかった。就職して長旅が出来なくなってから、時々手に取るようになった。バックパッカーのバイブルとも言われるこの「深夜特急」も大学生の頃、インドかどこかの宿で誰かが置いていったものを読んだことがあるが、自分自身がまさに旅をしている時にはそれほど惹かれなかった。
改めて読み返してみて、旅を追体験―というよりも再度体験しているような気持ちになれた(第1巻に書かれている香港もマカオも実際は行ったことがないけど)。市場の熱気、安宿のよどんだ空気、初めての土地に降り立った時の“自由”の感覚――。自分が旅に出る前にこの本を読んでいたら大いに影響を受けただろうし、逆に当時は旅の最中に読んだから今読む必要はないと感じたのだろう。
思えば、大学生の頃には小説もあまり読まなかった。逆に高校生の頃は小説しか読まなかった。再び小説を欲するようになったのは就職してから。自由が無くなった時に物語や旅行記を求める。本は昔から変わらずに読んでいても、その動機はその時々で結構変わっているようだ。
山室信一「キメラ―満洲国の肖像」
仮にも国として作られながら、崩壊時に多くの資料が焼き払われたこともあり、満洲国の実像や全体像はなかなか摑みづらい。漠然としたイメージや、あるいは引き揚げ者の証言を通じて「満洲」は語られてきた。
法制思想史が専門の著者は関東軍、日本、中国のつぎはぎで作られた“キメラ”として満洲の通史を描く。そこでは、政治の実験場、軍の裏金作りの場、「五族協和」を掲げながら実態は差別に満ちた社会としての満洲の姿が明らかになる。
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団鬼六「真剣師 小池重明」
「新宿の殺し屋」と呼ばれた真剣師(賭け将棋師)、小池重明の評伝。後のタイトル保持者も含めプロを次々と破るほどの腕を持ちながら、酒や金絡みのトラブルが絶えず、3度も人妻と駆け落ちするなど浮き沈みの多い44年の人生を送った。
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