ヴォイス 西のはての年代記II

アーシュラ・K・ル=グウィン「ヴォイス 西のはての年代記II」

「西のはての年代記」第2作。占領下で文字の使用が禁じられた都市を舞台に、語り手の少女の成長を通じて自由と信仰、和解を描く。

語りかけるものとしての言葉や文字の持つ力の大きさ。手垢の付いたテーマなのに、もっと読んでいたいと思える世界観が素晴らしい。
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画文集 炭鉱に生きる 地の底の人生記録

山本作兵衛「新装版 画文集 炭鉱に生きる 地の底の人生記録」

国内で初めて世界記憶遺産に登録された元炭坑夫の画文集。半世紀以上をヤマで暮らし、ヤマが消えた後、夜警をしながら残した大量の記録。労働の光景から事故、道具、俗信……決して“写実的”とは言えない絵だが、労働者自身による記録は圧倒的な迫力がある。
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ギフト 西のはての年代記I

アーシュラ・K・ル=グウィン「ギフト 西のはての年代記I」

「西のはての年代記」第1作。“ギフト”と呼ばれる不思議な力を持った人々が暮らす高地。制御できない<もどし>のギフトを持つため、父に両目を封印された少年。

父と子、少年の成長と、よくあるテーマだけど、精緻な世界観に引き込まれる。ファンタジーものの王道ながら、想像力を刺激する広がりのあるラストも素晴らしい。

蔭の棲みか

玄月「蔭の棲みか」

朝鮮人集落を舞台とした表題作は正攻法の純文学。主人公のソバンの、70年余りの人生を生きた上での軽さや頼りなさ、意固地さが印象的な一方、他の登場人物の描写は少し曖昧で不自然に感じる。

併録の「おっぱい」の方が、いい加減だけど著者のユーモアが強調されていて読んで面白い。特にラストの雑さに味がある。

戦場の精神史 武士道という幻影

佐伯真一「戦場の精神史 武士道という幻影」

多くの軍記物に記されつつも、あまり注目されない騙し討ちの場面。戦場で生まれた「武士道」は本来、虚偽・謀略を働いてでも、勝つこと、功名を立てることが第一であった。

合戦が遠い存在となった近世の太平の世で、当時は異端とも言える「葉隠」が生まれ、明治には新渡戸稲造の「武士道」が広く読まれるようになる。
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オホーツクの古代史

菊池俊彦「オホーツクの古代史」

オホーツクの歴史と言われ、何か具体的なイメージが湧く人が、日本にどれだけいるだろうか。

古代中国の文献に登場し、サハリンかカムチャッカにあったとみられる流鬼国と夜叉国。著者は僅かに残された文献上の記録と発掘調査の結果から、サハリン=流鬼、コリャーク=夜叉と推定する。
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地図から消えた島々 幻の日本領と南洋探検家たち

長谷川亮一「地図から消えた島々 幻の日本領と南洋探検家たち」

明治末期に発見され、領有宣言までされた中ノ鳥島。1972年まで海図に残り続けたロス・ジャルディン諸島。アホウドリの捕獲や鉱物資源のために南進した商人たちと帝国主義が生み出した幻の島々。

実在しなかった島々を軸に、小笠原や大東諸島などがどのように日本領に編入されてきたのかも触れつつ、日本の大航海時代を描く一冊。
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街場の文体論

内田樹「街場の文体論」

久しぶりに著者の本を手にとった。コミュニケーション論の総括的な内容で、バルトやソシュールに触れつつ、後半はこれまで繰り返し語ってきた内容に着地。メタ・メッセージの重要性。

ほかにも、丸山真男が海外でも度々参照されるのに吉本隆明がほとんど翻訳されない理由や、司馬遼太郎の内向きさなど、結構示唆に富んでて面白い。
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