旅人 ある物理学者の回想

湯川秀樹「旅人 ある物理学者の回想」

日本人として初めてノーベル賞を受賞した物理学者の、少年期から青年期までを綴った自伝。

内向的で、兄弟の中でも目立つ存在ではなかった少年が、どんな青春時代を過ごし、学問に目覚めていったのか。

文学少年だった著者は、数学や哲学などの学問に触れながら、次第に物理学への興味を深めていく。「旅人」とタイトルにあるように、時代の空気、人や本との出会い、さまざまな偶然が人を予想も付かなかった場所に運んでいく。
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海の鳥・空の魚

鷺沢萠「海の鳥・空の魚」

「どんな人にも光を放つ一瞬がある。その一瞬のためだけに、そのあとの長い長い時間をただただすごしていくこともできるような」

忘れられない一瞬、それもドラマティックな場面ではなく、自分でもなぜその場面を繰り返し思い出してしまうか分からないような瞬間を切り取ったような、鮮やかな短編集。
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アメリカひじき・火垂るの墓

野坂昭如「アメリカひじき・火垂るの墓」

 

「夜更けに火が燃えつき、骨を拾うにもくらがりで見当つかず、そのまま穴のかたわらに横たわり、周囲はおびただしい蛍のむれ、だがもう清太は手にとることもせず、これやったら節子さびしないやろ、蛍がついてるもんなあ、上ったり下ったりついと横へ走ったり、もうじき蛍もおらんようになるけど、蛍と一緒に天国へいき。」

自伝的小説「ひとでなし」によると、著者は「火垂るの墓」を〆切に追われながら書き上げて以来、一度も読み返していないという。アニメ映画も本編は一度も見ておらず、宣伝用の抜粋で涙を流し、戦後唯一泣いたのがその時だったと記している。
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あとは野となれ大和撫子

宮内悠介「あとは野となれ大和撫子」

直木賞と芥川賞の候補にそれぞれ選ばれ、硬軟幅広い作風を持つ作家の直木賞候補作の一つ。

設定が秀逸。舞台は中央アジア、干上がったアラル海に建国された架空の国アラルスタン。しがらみのない新たな国は、ソ連崩壊や民族紛争の混乱を逃れて周辺国からの難民が集まり、中央アジアにおける「自由主義の島」と呼ばれている。
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「右翼」の戦後史

安田浩一『「右翼」の戦後史』

日本の政治は、左右や保守、リベラルという軸では説明が難しい。特に右翼の思想は戦前と戦後で大きく変わり、戦後史の中でも何度も立ち位置を変えている。

国粋主義者であるはずの右翼がなぜ親米を掲げるのか。反政府の民族主義者として民族差別を嫌悪し、政治の腐敗に怒ったはずの右翼が、なぜ政権の応援団になり、少数派を抑圧する存在になってしまったのか。

近代以降の日本の右翼の歩みを、当事者への取材を重ねてまとめた労作。著者は伝統的な右翼思想には理解を示す一方、ネット右翼をはじめとする差別主義者を厳しく批判する。
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