ぴんぞろ

戌井昭人「ぴんぞろ」

表題作は、受賞作の無かった2011年上半期の芥川賞候補作。文藝春秋の選評掲載号に候補作6本を代表して掲載されたので、相対的に評価が高かったのだろう(この回の他の候補作は円城塔「これはペンです」、本谷有希子「ぬるい毒」など)。

短めの中編小説、あるいは長めの短編小説というくらいの分量だが、前半の浅草でのチンチロリンの話から、後半は場末の温泉街のヌード劇場へと物語の場所が移り変わり、ややロードムービーのような雰囲気も。社会の底辺を描きながら、決してアクの強い作風ではなく、むしろ筆はさらさらと群像の表面をなでるように進んでいく。
“ぴんぞろ” の続きを読む

何でも見てやろう

小田実「何でも見てやろう」

旅行記の古典。60~70年代、本書を読んで多くの若者が海を渡った。

著者は1959年にフルブライト留学生として米国に渡り、その帰途、欧州からアジアまで各地を訪れた。当時はまだ海外旅行が珍しかった時代。貧乏旅行で計22カ国を訪れた著者の記録は、同世代の若者から大きな衝撃と羨望を持って受け止められたことだろう。本書を読むと行き当たりばったりの奔放な旅のように思えるが、死後に見つかった著者のノートには、綿密な準備の跡と計画がびっしり書き込まれていたという。
“何でも見てやろう” の続きを読む

日本アルプス―登山と探検

ウォルター・ウェストン「日本アルプス―登山と探検」

W.ウェストンの名前は山歩きをする人間なら一度は聞いたことがあるだろう。明治時代の日本に滞在し、アルプスを中心に各地の山々を踏破した。日本の山の魅力を世界に知らせるとともに、修験道などの宗教登山ではない“趣味”としての登山を日本に浸透させた。

“Mountaineering and exploration in the Japanese Alps(日本アルプスの登山と探検)”はその代表作で、初めて槍ヶ岳や立山などを旅した時の情景が克明に記録されている。
“日本アルプス―登山と探検” の続きを読む

図説「最悪」の仕事の歴史

トニー・ロビンソン『図説「最悪」の仕事の歴史』

人間は有史以来、さまざまな仕事を生みだしてきた。この本(”The Worst Jobs in History”)が取り扱うのは、古代ローマから近代までの西洋における“最悪の仕事”の歴史。著者は、現代でいう「危険」「汚い」「きつい」の3Kに、「退屈」と「低収入」の二つを加えた3K2Tの仕事の数々を紹介している。
“図説「最悪」の仕事の歴史” の続きを読む

ホサナ

町田康「ホサナ」

大傑作「告白」に匹敵する約700ページの大作。愛犬家の主人公は、ある日、“日本くるぶし”と名乗る神なのか何なのか分からない声から「正しいバーベーキューをせよ」という啓示を受ける。

物語は繰り返し思索の脇道にそれ、思索もひたすら脇道にそれ続ける。予定調和からは程遠い、無茶苦茶な展開がこれでもかというほど積み重ねられる。こんな突拍子もない物語を綴ることができるのも、饒舌な文体を持っているからこそ。
“ホサナ” の続きを読む