サイエンス・インポッシブル SF世界は実現可能か

ミチオ・カク「サイエンス・インポッシブル SF世界は実現可能か」

フォースフィールド、ライトセーバー、デススター、テレポーテーション、不可視化、念力……SFに出てくる技術が実現可能か、物理学の立場から本格的に考察した一冊。永久機関と予知能力以外は物理法則には反しないとして、実現のための課題を解説している。

ほとんどの技術は莫大なエネルギーをいかに調達し、制御するかの問題につきる。後半になるにつれて科学の門外漢には少し難しくなるけど、とても刺激的な一冊。

沢木耕太郎「凍」

山野井泰史、妙子夫妻によるギャチュンカン北壁登攀の記録。

下山時の細かな描写が圧巻。悪天候につかまり、吹雪、雪崩、宙づり、岩壁に張り付いてのビバーク、そして疲労の中、徐々に視力が失われていく。
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ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年

奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年」

出生直後に病院で取り違えられた二人の少女とその家族の17年にわたる克明な記録。

血液検査がきっかけで取り違えが発覚した後、両家族は小学校入学を目前に再び子を交換する。6年の月日は重く、子供たちは実の親にも新しい環境にも馴染めず、互いの家庭を行き来する不安定な交流が続く。
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2100年の科学ライフ

ミチオ・カク「2100年の科学ライフ」

2100年、科学はどこまで進歩し、ライフスタイルはどう変わっているか。医療やナノテクノロジー、エネルギー、宇宙開発などの分野について、現在の課題と今後の発展を考察した一冊。

シリコンに替わる素材や並列処理でムーアの法則の終焉を避けられるのか、パターン認識と常識を人工知能に盛り込むことができるのか、宇宙開発におけるコストの問題…などなど。
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空白の天気図 核と災害1945・8・6/9・17

柳田邦男「空白の天気図 核と災害1945・8・6/9・17」

原爆投下と終戦を挟んだ混乱期、1日も欠かすこと無く観測業務を続けた広島気象台の台員たち。通信も設備も壊滅した中で天気図は描けず、予報業務も行えなかった。9月17日の枕崎台風は、広島で上陸地の九州よりはるかに多い約2千人の死者行方不明者を出す。
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空へ エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか

ジョン・クラカワー「空へ ‐エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか」

96年春、12人の死者を出したエベレスト。クラカワーは、急増する営業遠征隊の問題について書こうとロブ・ホールの隊に参加し、登頂に成功する。下山時に天候が悪化し、遠征隊の6人の登頂者のうち、ロブ・ホールや難波康子を含む4人が死亡。“死の領域”で予期せぬ事態に陥り、低酸素で意識が薄れ、錯乱し、力尽きていくメンバー。たった数十分の差と偶然が生死を分けた。

優れたライターが大量遭難の当事者となり、かつ生還したことによって書かれた奇跡的な一冊。主観的すぎる部分もあるけど、だからこそ、貴重で凄絶な記録。

原発のコスト ‐エネルギー転換への視点

大島堅一「原発のコスト ‐エネルギー転換への視点」

原発のコストは、電力会社にとっては確かに安い。それはコストとリスクを未来へ先送りすることと、発電に直接関わる費用以外を、電源三法交付金などで国の負担とすることで、経営の外側に追いやっているからだろう。事故に伴う賠償コストを除いたとしても、本来なら使用済み核燃料などのバックエンドコストや高速増殖炉などに費やされる関連コストは考慮に入れないといけない。

もちろん原発を無くしても、これらの関連コストはすぐに解消されず、短期的には化石燃料の焚き増しや自然エネルギーの開発コストも含めて非常に高くつくことになる。ただ原発が安いという欺瞞のもとに政策を進めていくのではなく、本来のコストとリスクを見極めて判断していく必要がある。

柿の種

寺田寅彦「柿の種」

物理学者で俳人でもある寺田寅彦。他愛ない日常の話題が多いが、短いコラムの見本と言えるほど、すとんと心の中に入ってくる。大正時代の文章とは思えない。

「脚を切断してしまった人が、時々、なくなっている足の先のかゆみや痛みを感じることがあるそうである。総入れ歯をした人が、どうかすると、その歯がずきずきうずくように感じることもあるそうである。こういう話を聞きながら、私はふと、出家遁世の人の心を想いみた。生命のある限り、世を捨てるということは、とてもできそうに思われない」 
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将棋の子

大崎善生「将棋の子」

プロ棋士を目指した少年のその後を訪ねたノンフィクション。

奨励会に所属し、26歳までに四段という厳しい昇段規定を達成できなければ、プロになる道はほぼ完全に閉ざされる。誕生日を迎えるたびに募る焦燥感。わずか一手の差から、青春のほとんどすべてをかけた夢が破れていく。その時、どう生きていくのか。
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