終戦後間もない東京。大学生の吉岡は、世間知らずな少女、森田ミツと体の関係を結ぶが、田舎臭いミツに嫌悪感を覚え連絡を絶つ。やがて吉岡は就職先の重役の娘と結婚するが、ミツは一途に吉岡のことを思い続けている。
とここまで書けば身勝手な男の姿を描いた通俗小説だが、ミツの人物像が掘り下げられていく中で、物語は哲学的、宗教的な様相を帯び始める。
“わたしが・棄てた・女” の続きを読む
読んだ本の記録。
終戦後間もない東京。大学生の吉岡は、世間知らずな少女、森田ミツと体の関係を結ぶが、田舎臭いミツに嫌悪感を覚え連絡を絶つ。やがて吉岡は就職先の重役の娘と結婚するが、ミツは一途に吉岡のことを思い続けている。
とここまで書けば身勝手な男の姿を描いた通俗小説だが、ミツの人物像が掘り下げられていく中で、物語は哲学的、宗教的な様相を帯び始める。
“わたしが・棄てた・女” の続きを読む
下川裕治「12万円で世界を歩く」
「12万円で世界を歩くリターンズ」
近年、旅の景色は大きく変化した。
名著「12万円で世界を歩く」が刊行されたのは1990年。東南アジアからアメリカ、シルクロード、ヒマラヤまで、毎回、往復航空券代含め12万円で世界各地を旅するという雑誌の企画で、著者の旅行作家としてのデビュー作でもある。
“12万円で世界を歩く” の続きを読む
母親と二人暮らしのヒロシを中心に、中学3年の日常を抑制的な筆で綴る。登場人物はそれぞれに事情を抱えている。そこにドラマティックな解決は訪れない。誰もが悩みを抱えながら、それでも時は流れていく。
“エヴリシング・フロウズ” の続きを読む
「紀伊半島は海と山と川の三つの自然がまじりあったところである。平野はほとんどない。駅一つへだてるとその自然のまじり具合がことなり、言葉が違い、人の性格は違ってくる」
「海からの潮風が間断なく吹きつけるこの枯木灘沿岸で、作物のほとんどは育たない。木は枯れる。(中略)潮風を受けて崖に立っていると、自分が葉を落とし枝が歪み、幹の曲がった樹木のような気がしてくる」
“紀州 木の国・根の国物語” の続きを読む
日本では、探検家といってもあまり具体的な名前が浮かばない人が多いかもしれない。小さな島国で、未踏の地、未知の地とはあまり縁がなかったようなイメージがあるが、実際には多くの探検家や旅行者が辺境を調査し、“国土”を切り開いてきた。
流刑先の八丈島で「八丈実記」という詳細な地誌を残した近藤富蔵。東北を歩き、民衆の生活誌を細かく記した菅江真澄。蝦夷地の内陸部を踏査した松浦武四郎。南西諸島と千島列島の調査に先鞭を付けた笹森儀助。4人の半生を中心に、辺境を歩いた先人の業績を語る。
“辺境を歩いた人々” の続きを読む
アイルランドへの旅行を前に死んでしまい、未練から浮遊霊となった72歳の男の姿を描いた表題作が面白い。
身体が壁をすり抜け、建物に自由に出入りできる一方、車や電車に乗ることができず、歩く速度でしか動けない。下心から近所の銭湯に行ってみるも同世代しかおらず、無為な日常に飽きてしまったところで、人に取り憑いて移動できることに気付く。そこから憑依を重ねるも念願のアイルランドは遠く、不思議な巡り合わせでブラジルに辿りついてしまう。
“浮遊霊ブラジル” の続きを読む
本来、モノやサービスの値段は、売り手と買い手との関係性や、その時々の状況などさまざまな要因で決まる。言い換えれば、値段はそこに多様な情報を含んでいる。
近代化と共に値段の付け方は均質化され、一律に提示することが難しい“よく分からない値段”が敬遠されるようになってきたが、京都にはまだ一部にそうした“おねだん”が残っている。チャプリンの研究者である著者は、京都に住んで20年あまりの「京都人見習い」。ゲーム感覚で京都という多様な顔を持つ社会に分け入っていく。
“京都のおねだん” の続きを読む