渡辺えり子「ゲゲゲのげ/瞼の女」
「ゲゲゲのげ」は岸田賞受賞作。いじめられっ子の物語に鬼太郎と妖怪の戦いが混ざり合う。特定の主人公を立てるのではなくキュビズムのように多面的に描けないか考えていたと後書きに記しているように、夢のような脈絡のない展開で、次々と別の世界に連れていかれる。夢と同じく要約は難しい。「瞼の女」も同じ。過去、現在、未来、生まれなかったもの、生まれたかもしれないもの、それら全てが渾然と描かれる。
読んだ本の記録。
久坂部羊「廃用身」
高齢者医療に携わる主人公の青年医師は、ある日、麻痺などで回復の見込みが無い部位を切断する「ケア」を思いつく。患者にとっては、不随意運動や痛みから解放され、周囲の人間にとっては介護の負担が軽減されるという狙いだが……
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富士正晴「桂春団治」
戦前の落語界で一世を風靡した桂春団治の評伝。上方落語を巡る状況は今に至るまで時代とともに目まぐるしく変わっており、戦前と刊行(1967年)当時のそれぞれの空気が感じられて興味深い。
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瀧澤美恵子「ネコババのいる町で」
奔放な母に捨てられるようにして叔母と祖母のもとに預けられ、二人と隣人のネコババらに見守られて少女は育つ。力まず軽やかな筆で、幼少期の思い出の断片を綴っていく。自分とは全く違う境涯の主人公だけど、不思議と共感し、引き込まれる。こうした作品は意外と少ない。
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島田裕巳「『日本人の神』入門 神道の歴史を読み解く」
日本には八百万の神がいるといっても、自分も含めて大抵の人は、せいぜい数柱の神の名前しか言えないのではないか。宗教というと伝統的なものと考えがちだが、日本の神々のあり方は古来、大きく変化してきた。仏教伝来、神仏習合、神仏分離などの変遷以外にも、祀られ方も神々の関係も今と往時では大きく異なっている。仏と神、神と霊、さまざまなものを習合させ、日本人の信仰は形成されてきた。
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