売笑三千年史

中山太郎「売笑三千年史」

神代から明治まで、売笑の歴史を総覧する大著。

膨大な史料を引用し、宗教的行為としての売色から始まり、巫女から巫娼へ、そして遊行婦、浮かれ女、白拍子、娼妓、芸妓……とその変遷を辿っていく。ただの性産業の歴史ではなく、婚姻形態の移り変わりや、武士の台頭など社会の変化を映し出していて興味深い。
“売笑三千年史” の続きを読む

昭和天皇の終戦史

吉田裕「昭和天皇の終戦史」

国体=天皇制を維持するために人々がどう動いたのか。米国の利益と宮中の利益の間で展開される工作はスリリングで、読み物としても引き込まれる。戦争責任、という問いの立て方は不毛な議論に陥ってしまうが、著者はそれを避けつつ、主戦論者だけでなく、理性的な平和主義者の顔をした「穏健派」も告発する。

昭和天皇独白録

「昭和天皇独白録」

今さら専門外の身で語ることが憚られるような有名な史料だが、昭和天皇自身の戦争史観や人物評が伺えて大変面白い。この記録からは、あの時代において内外の情勢をしっかり把握しようという意思を持つ理性的な君主という印象を受ける。終戦後の聞き書きということもあって、正確な記録というよりは、開戦やポツダム宣言の受け入れなどを自分なりにどう納得しているかが分かって興味深い。ただこの独白録自体が政治的意図を持っていた可能性もあり、正確な評価は難しい。

彫刻と戦争の近代

平瀬礼太「彫刻と戦争の近代」

戦時の彫刻作品について美術史で語られることはほとんどないが、実際には彫塑関係の展覧会は活況を示していたという。芸術家の戦争協力というだけの論なら新しくはないが、美術品や公共のシンボルなど位置づけがあいまいな彫刻からの視点はなかなか新鮮。
“彫刻と戦争の近代” の続きを読む

大坂の非人 乞食・四天王寺・転びキリシタン

塚田孝「大坂の非人 乞食・四天王寺・転びキリシタン」

都市の形成とともに乞食が集団化し、新たな貧人の統制を担い、やがて町奉行所の御用を担うようになっていく。大坂ではそこに四天王寺との関係も絡み、垣外仲間=非人は、えた身分と別れて独自の組織化が進んだ。転びキリシタンがその中核を担ったというのも興味深い。
“大坂の非人 乞食・四天王寺・転びキリシタン” の続きを読む

盆踊り 乱交の民俗学

下川耿史「盆踊り 乱交の民俗学」

副題にあるように盆踊りの発生を巡る考察を通じて乱交の歴史を紐解く。歌垣や雑魚寝という性の場と、芸能の起源としての風流(ふりゅう、現代の「風流」ではなく、侘び寂びに対峙する奇抜な美意識)、それらはやがて村落共同体で盆踊りへと洗練されていく。しかし、明治に入ると盆踊りは禁止され、同時に性の世界は日常生活の表舞台から消えてしまった。
“盆踊り 乱交の民俗学” の続きを読む

鬼の復権

萩原秀三郎「鬼の復権」

能や様々な地域芸能、神事などに現れる「鬼」のイメージの考察に役立つかと思って手にとった一冊。

著者は地獄の獄卒や悪鬼ではない、仏教に取り込まれる以前の鬼のイメージを明らかにする狙いで「鬼の復権」という題を掲げているが、鬼籍という言葉など、現代でも鬼には単なる死者や亡者のイメージもある。死霊や来訪神などが鬼の原型と言われても、それほど驚きはない。むしろ、異界との通路となる戌亥の方角や、そうした世界観に対する大陸文化の影響などの考察が興味深かった。鬼が悪鬼のイメージに飛躍する瞬間を、大雑把な仮説でもいいからもっと読みたかった。

ナツコ 沖縄密貿易の女王

奥野修司「ナツコ 沖縄密貿易の女王」

終戦直後の沖縄に現れた数年間の大密貿易時代に、太陽のように存在した夏子。

八重山は戦前、戦中を通じて台湾経済圏に属し、終戦後は米軍支配下で放置されたことで、「黄金の海」に浮かんだ密貿易の中心となった。日本の辺境となった現在からは想像できないほどの繁栄の時代。アメリカ世でもヤマト世でもない、ウチナー世を象徴しながら、資料に残らなかった38年の生涯。
“ナツコ 沖縄密貿易の女王” の続きを読む