江戸の性風俗

氏家幹人「江戸の性風俗」

日本社会の性に対する態度はいつから今のようになったのだろうか。常識というのは意外なほど歴史が浅い。著者は、川路聖謨の日記を読み解き、武家で開けっぴろげに下ネタが語られていたことを明らかにする。さらに「肌を合わせる」という言葉がかつては第一義的に精神的な信頼関係を意味し、決して現在のように肉体関係のみを表すのではなかったことを指摘する。当時は肌の接触と心の結びつきは不可分の関係にあった。プラトニック・ラブは現代の文化なのだ。
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神道の逆襲

菅野覚明「神道の逆襲」

ポップな(少しださい)タイトルの割には中身は全然ポップではなく、しっかりとした神道思想史。伊勢神道、吉田神道、垂加神道から、本居宣長や平田篤胤らの神道解釈まで、日本人にとって神様とは何か、の思想を追っていく。個人的には、国家神道や現在の神社神道がなぜ成立したのかを含めて神祇信仰全体の歴史を知りたくて手にとった本だが、そうした総合的な視野で書かれたものではなく、あくまで思想史。政治や社会情勢に対する言及は少ない。

秋の日本

ピエール・ロチ「秋の日本」

仏作家、ピエール・ロティの日本滞在記。

明治期に日本を訪れて記録を残した外国人は大勢いるが、ロティはラフカディオ・ハーンなどと比べるとかなり率直な旅行者の視線=軽侮や驚き混じりの感想を記していて、だからこそ、現代の旅行記と似た感覚で面白く読める。京都駅で人力車の客引きに囲まれる所など、バックパッカーのインド旅行記のよう。
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日本宗教史

末木文美士「日本宗教史」

記紀神話に始まり儒教や思想にも触れていて、どのように日本人の“古層”が形成されてきたか、日本精神史とも言える充実した内容。

個人的に、仏教と神祇信仰は二本柱のように独立して存在し、その中間に神仏習合の領域があると考えていたが、実際には両者は互いに影響しあい、大きく変容してきた。特に日本古来の伝統と考えられがちな神祇信仰が、仏教の影響で形成されてきた過程が興味深い。
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神々の明治維新 ―神仏分離と廃仏毀釈

安丸良夫「神々の明治維新 ―神仏分離と廃仏毀釈」

明治新政府が進めた神仏分離政策は日本人の信仰を大きく歪めたはずなのに、それについてまとめた書物は少ない。日本史の授業でもほとんど習わない。それぞれの寺社にとっても誇れる歴史では無いから語られずに来たのだろう。廃仏毀釈の嵐も今となっては全体像を掴むのは困難となっている。
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不義密通 ―禁じられた恋の江戸

氏家幹人「不義密通 ―禁じられた恋の江戸」

古典を理解する上で、江戸時代の貞操観念の理解が欠かせないと思い、手に取った一冊。
(実際には、上記の真面目な理由と、下世話な関心が半々)

不義密通の事例を各藩の史料から次々と引用していくばかりで、それほど厚い本でもないのにお腹いっぱい。人の世は今も昔も変わらないんだな、という印象。ただ体面は現代とは比べ物にならないほど気にされたようで、寝取られた側にも課される厳しい処分や、妻敵討の事例はなかなか興味深い。もう少し社会学、歴史学的な考察があれば。

弾左衛門とその時代

塩見鮮一郎「弾左衛門とその時代」

穢多頭、長吏頭として江戸期の被差別民を統率した「弾左衛門」。最後の弾左衛門(13代目、弾直樹)の生涯と、初代が関八州を家康から任せられるようになった経緯の考察が中心。

特に明治の解放令に直面した13代目の話が興味深い。被差別民の解放は、土地の商品化や皮革産業における特権の解体など、資本主義の要請と一体だった。身分制度は、差別意識のみが歪んだ形で次の時代に残ってしまった。