戦場の精神史 武士道という幻影

佐伯真一「戦場の精神史 武士道という幻影」

多くの軍記物に記されつつも、あまり注目されない騙し討ちの場面。戦場で生まれた「武士道」は本来、虚偽・謀略を働いてでも、勝つこと、功名を立てることが第一であった。

合戦が遠い存在となった近世の太平の世で、当時は異端とも言える「葉隠」が生まれ、明治には新渡戸稲造の「武士道」が広く読まれるようになる。
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オホーツクの古代史

菊池俊彦「オホーツクの古代史」

オホーツクの歴史と言われ、何か具体的なイメージが湧く人が、日本にどれだけいるだろうか。

古代中国の文献に登場し、サハリンかカムチャッカにあったとみられる流鬼国と夜叉国。著者は僅かに残された文献上の記録と発掘調査の結果から、サハリン=流鬼、コリャーク=夜叉と推定する。
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地図から消えた島々 幻の日本領と南洋探検家たち

長谷川亮一「地図から消えた島々 幻の日本領と南洋探検家たち」

明治末期に発見され、領有宣言までされた中ノ鳥島。1972年まで海図に残り続けたロス・ジャルディン諸島。アホウドリの捕獲や鉱物資源のために南進した商人たちと帝国主義が生み出した幻の島々。

実在しなかった島々を軸に、小笠原や大東諸島などがどのように日本領に編入されてきたのかも触れつつ、日本の大航海時代を描く一冊。
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歴史を考えるヒント

網野善彦「歴史を考えるヒント」

日本という国号が定められ「日本人」が生まれたのはいつなのか、この問いにまともに答えることができる人がどれだけいるだろうか。関東や関西といった地域名がいかに生まれたか。自由、人民、土民、落とす、募るの本来の意味は――。

日本の歴史教育は左右問わず、自虐かどうかよりも根本的なところでずれている。近代の農本主義に基づく百姓=農民という誤解が歴史観をいかに歪めたか。為政者の意志や外国語との出会いで言葉の意味は移り変わり、過去の姿も変わって見えてしまう。言葉を軸に歴史を考える、網野善彦のエッセンスが詰まった一冊。

古代ローマ人の24時間 −よみがえる帝都ローマの民衆生活

アルベルト・アンジェラ「古代ローマ人の24時間 −よみがえる帝都ローマの民衆生活」

古代ローマ人はどんな暮らしを送っていたのか。ローマの街並み、市場の喧噪、家々の作り、部屋の調度、人々の服装、髪型、夜の営み……旅番組のカメラが街中を散策していくように、夜明けから深夜までのローマの光景を描写していく。

中でもインスラ(集合住宅)の説明が興味深い。今から2000年前に既に現代のような生活が生まれ、何万棟もの高層住宅がひしめき合っていた。そのライフスタイルは、エネルギー源が電気か人力(奴隷)か以外にはほとんど違いが無いように思える。

テルマエ・ロマエの最高の副読本。かなり面白い。

西洋中世の罪と罰 亡霊の社会史

阿部謹也「西洋中世の罪と罰 亡霊の社会史」

粗野で生者に災いをなす死者は、キリスト教と共に、生者に助けを求める哀れな死者へイメージを変えた。アイスランド・サガなどからの引用で古代ゲルマンの世界観を説明しながら、キリスト教がどう受容されていくのかを描く。
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地図から読む歴史

足利健亮「地図から読む歴史」

地形や地名に残された微かな意志の断片をもとに歴史を読み解く歴史地理学のエッセンスが詰まった一冊。

郡境がなぜ今のように定まったのか、信長がなぜ安土に城を築いたのか、飛鳥をあすかと読む理由は……。本当に面白くて刺激的な分野。
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河野広中小伝

高橋哲夫「河野広中小伝」

河野広中は、明治・大正期の政治家で自由民権運動の活動家。福島に住んだり、日本史を学んでいればよく聞く名前だろうけど、今となっては一般的にはそれほど知名度は無いかもしれない。

福島は自由民権運動の先進地であると共に、国会より早く全国初の民会(公選議会)が設置された県でもある。明治14年には議長だった河野広中が中心となって、普通選挙を国に提言している。実際に普選法が成立するより半世紀近く早い。
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