だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人

水谷竹秀「だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人」

バンコクにある日本企業のコールセンターで働く人々を取材したノンフィクション。

2000年代に入ってから、日本企業が人件費の節約のため、コールセンターをバンコクに移すケースが増えたという。そこで働くのは日本からタイに渡った30代、40代を中心とした男女。日本に居場所がなかったと語る彼らの半生を通じて、現代の日本社会の生きづらさが浮き彫りになる。
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風の歌を聴け

村上春樹「風の歌を聴け」

「羊をめぐる冒険」以降の作品は時々読み返してきたが、デビュー作である「風の歌を聴け」を開くのはずいぶん久しぶり。

1979年発表。初期の作品に共通する「僕」と「鼠」のひと夏の物語で、著者が20代の最後に書いた感傷的な作家宣言とも言える作品。処女作にはその作家の全てが詰まっているとよく言われるが、その言葉通り、冒頭の文章には著者の全ての作品に共通する姿勢が刻まれている。

「今、僕は語ろうと思う。(中略)うまくいけばずっと先に、何年か何十年か先に、救済された自分を発見することができるかもしれない」
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信用の新世紀 ブロックチェーン後の未来

斉藤賢爾「信用の新世紀 ブロックチェーン後の未来」

ブロックチェーンの技術がもたらす社会経済の未来像。それはデジタルマネーの普及や、法定通貨が仮想通貨に置き換わるという単純な話ではない。著者は貨幣経済が衰退し、新しい形の信用経済が世界を覆っていくだろうと予見する。その際、消費者と生産者の区別はなくなり、人工知能の発達、シェアリングエコノミーの普及と相まって、「貨幣」「専門分化」「国家」は三つ巴で存在感を低下させていくという。
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臣女

吉村萬壱「臣女」

夫の不倫をきっかけに精神に異常を来し、身体の巨大化が始まった妻との日々。

およそ人間とは思えないサイズまで肥大化していくという非現実的な設定だが、一人称の筆は、その妻との生活の苦労を淡々と、グロテスクに綴っていく。
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異国トーキョー漂流記

高野秀行「異国トーキョー漂流記」

コンゴで幻獣を探し、東南アジアのアヘン栽培村に住み込み、無政府状態のソマリアを旅する。規格外の旅を軽やかな筆で記してきた高野秀行が、日本で知り合った異国からの友人との思い出を綴ったエッセイ集。

BUTOH(舞踏)に憧れ、自分探しの果てに日本にたどり着いたフランス人から、出稼ぎのペルー人、故国を追われたイラク人まで。登場する人々それぞれのエピソードを通じて、東京はトーキョーに姿を変え、日本の生きづらさも、生きやすさも、改めて浮かび上がる。体当たりのルポとは違う味わいのある“世話物”の一冊。
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古事記 池澤夏樹=個人編集 日本文学全集07

池澤夏樹=個人編集 日本文学全集01
古事記

池澤夏樹編の日本文学全集。第1巻では編者自ら古事記の新訳に取り組んだ。

古事記に関しては、石川淳の「新釈古事記」が素晴らしく、流麗で格調高い文章と読みやすさを両立していて何度読んでもため息が出てしまう。ただ、かなり言葉や要素を補っているため、現代語訳というよりは石川淳の作品と呼んだ方が相応しい。

池澤夏樹は本文を加筆することは極力避け、ページ下部に膨大な注釈を付けた。このことによって、神や人の名前の列記と、物語に挿入された数々の歌が大半を占める原典の構成がよく分かるようになった。特に名前の列記について池澤訳はこだわりを見せ、改行などで非常に見やすく並べている。
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もぎりよ今夜も有難う

片桐はいり「もぎりよ今夜も有難う」

映画というより映画館にまつわるエッセイ集。銀幕に憧れて育ち、銀座文化劇場(現シネスイッチ銀座)でもぎりのアルバイトを7年間していた著者の映画愛と映画館愛にあふれた一冊。もぎり時代の思い出を交えつつ、旅先で映画館を訪ねた際のエピソードなどが軽妙な文章で綴られる。
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鳳仙花

中上健次「鳳仙花」

 

 十数年ぶりに再読。「路地」という極めて小さな世界を描きながら神話的といわれる中上健次の作品群において、まさに神話の始まりを綴った作品。

 「岬」「枯木灘」「地の果て至上の時」三部作の主人公・秋幸の母フサは、兄への憧憬を抱えながら、15歳で故郷の古座を離れて新宮に奉公に出る。勝一郎、龍造、繁蔵の3人の男と出会ったフサは、性を知り、子を産み、母として豊穣な物語の源流となる。
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