坊っちゃん

夏目漱石「坊っちゃん」

ユーモアに満ちていて、どこか切ない。

近世以前の古典作品にしろ、漱石にしろ、改めて読むと自然なユーモアに満ちていて驚かされる。日本文学はおおらかで豊かな土壌に育っていたのに、いつの間にか痩せた土地ばかり耕しているのではないか。

男ともだち

千早茜「男ともだち」

主人公の女に対して同棲中の恋人が漏らす「男ともだちか」「いや、なんかずるい響きだなって」という言葉に物語の要素が凝縮されている。とにかくいろいろとずるい。序盤は「あとかた」のように器用な印象が先に立ってしまったが、イラストレーターである主人公の創作に対する悩みも含めて、著者自身の切実さのようなものが感じられ、だんだんと引き込まれた。

紀ノ川

有吉佐和子「紀ノ川」

明治から大正、昭和へ、社会が大きく変わっていった時代を描いた女三代記。

家父長的な旧家の盛衰を題材としながら、そこを貫くのは男の系図ではなく、母への反発と共感を繰り返しながら女から女へと受け継がれる血筋。
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新編 日本の面影

ラフカディオ・ハーン「新編 日本の面影」

ハーンの代表作の一つ、「知られぬ日本の面影」の新編集版。ただの紀行文にとどまらない記述の密度に驚かされる。かなり丁寧に話を聞き、寺社仏閣の由来から民間伝承まで細かく書き込んでいる。情景描写は小説のよう。

「神々の国の首都」「杵築」「日本の庭にて」などでハーンの書く日本はこの上なく美しい。
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すみれ

青山七恵「すみれ」

37歳のレミちゃんと語り手である15歳の少女。「当たり前の幸せなんか、いやだ……」と感じつつ、自分の平凡さに気付いている思春期の少女の苦しみに切実さがある一方で、心を病んでいるというレミちゃんを含む周りの人物の造形にちょっと違和感も。
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