色川武大の短編集。他の単行本に未収録の作品をまとめたものだが、著者らしいユーモアと哀感に満ちた名篇ぞろい。
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窓ぎわのトットちゃん
戦後最大のベストセラー。少女の成長物語や、教訓に満ちた児童文学としても非常に面白いし、教育論としても今なお読まれる価値がある。
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金色機械
時代小説×ファンタジー。珍しい組み合わせのようで、実際には漫画や娯楽小説、八犬伝などの古典から様々な民話にまでさかのぼる日本文学においては鉄板のテーマ。
危険を察知する天賦の才能に恵まれた遊廓の大旦那と、触れた者の命を奪うことが出来る能力を持った女。二人の半生を、金色様と呼ばれる(C-3POを連想させる)未来から来たアンドロイドの存在が繫ぐ。入り組んだ複数のドラマに、安直な予想を裏切る仕掛けも何度か挟まれ、先へ先へと物語はスピードを上げていく。
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あの夕陽 牧師館 日野啓三短篇小説集
日野啓三の短編集。表題の二作に加えて、戦地で失踪した記者の行方を追うデビュー作の「向こう側」など全八作を収録。幼年時代を植民地の京城で過ごし、その後に新聞記者としてベトナムやソウルで特派員をしていた自らの経験を下敷きとした私的な作風ながら、そこに戦後日本で都市生活を送る虚無感のようなものが滲んでいる。
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鞄の中身
長ければ良い小説というものではないし、凝った文章が豊かであるとも言い切れない。吉行淳之介の短篇は極めて短く、これ以上ないくらい平易な文体で綴られている。それでもそこには複雑な陰影と、長篇小説に劣らぬ広がりがある。
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くるぐる使い
ミュージシャンとして活躍する傍ら、作家としても多数の小説やエッセイを発表している大槻ケンヂの短編集。オカルト、SF風の5編が収められている。表題作と「のの子の復讐ジグジグ」は星雲賞の受賞作。
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海と毒薬
戦時中に九州帝大で行われた米兵捕虜に対する生体解剖事件を題材とした作品。著者の初期の代表作の一つで、手術に立ち会った医学生や看護師のそれまでの人生を描きながら、日本人における罪の意識のあり方を浮かび上がらせる。
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深い河
美しい顔
北条裕子「美しい顔」(群像2018年6月号)
震災で母を亡くした少女が、日常に戻ることを拒絶するかのようにカメラの前で“被災者”を演じる。芥川賞候補として発表された後、複数の無断引用箇所が指摘されたが、盗作か参考かという議論に個人的にはそれほど関心が無く、この作品を読んで一番に感じたことは、こうしたフィクションが書かれるようになるだけの時間があの日から経過したんだなぁということ。
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生家へ
阿佐田哲也名義の作品には家族の話はあまり出てこないが、色川武大の小説では生家と父親のことが繰り返し語られる。無頼派として知られる作家だが、その根底には孤独と劣等感とともに、自身のルーツに対する深い愛惜がある。
「生家へ」は回想に幻想が混じり合った連作短編。77~79年にかけて発表され、幼い頃に級友たちになじめなかったコンプレックスと、屈託を抱えた高齢の父親との愛憎入り交じった関係がさまざまに角度を変えて綴られる。
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