幼年期の終わり

アーサー・C・クラーク「幼年期の終わり」

第1章が書き直されている新版。

宇宙の彼方から超越者が現れ、人類を導く。人はその超越者をオーバーロードと呼び、国家は解体され、差別や格差は撤廃される。絶対に超えられない存在を知った人類は進歩をやめる。宇宙を目指さなくなり、科学も芸術も衰退する。

こう書くとよくあるディストピア小説だが、この作品のスケールはそれにとどまらず、まさに人類の“幼年期の終わり”を描く。
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スローターハウス5

カート・ヴォネガット・ジュニア「スローターハウス5」

ドレスデン空襲を中心に据えながら、物語はずっとその周囲を飛び回る。

米国兵のビリー・ピルグリムは、時間を超えて人生の断片を行き来しながら生涯を送る。欧州戦線から、戦後の穏やかな日々、時間という概念を超越した宇宙人が住むトラルファマドール星まで、場面は脈絡無く飛んでいく。
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サイエンス・インポッシブル SF世界は実現可能か

ミチオ・カク「サイエンス・インポッシブル SF世界は実現可能か」

フォースフィールド、ライトセーバー、デススター、テレポーテーション、不可視化、念力……SFに出てくる技術が実現可能か、物理学の立場から本格的に考察した一冊。永久機関と予知能力以外は物理法則には反しないとして、実現のための課題を解説している。

ほとんどの技術は莫大なエネルギーをいかに調達し、制御するかの問題につきる。後半になるにつれて科学の門外漢には少し難しくなるけど、とても刺激的な一冊。

屍者の帝国

伊藤計劃、円城塔「屍者の帝国」

伊藤計劃の残したプロローグに円城塔が書き継いだSF作品。屍者が動き、社会を支えている19世紀末の世界。屍者技術の根幹を成し、人間の意志を生み出す、菌株=任意のX=言葉、という設定、意識や言語といったモチーフは「虐殺器官」「ハーモニー」を連想させ、まさに伊藤計劃のもの。

一方で、細かな要素を盛り込むサービス精神(と、それ故の読みにくさ)は紛れもなく円城塔の作品。主人公はワトソン、他にもアリョーシャ、ダーウィン、ヴァン・ヘルシング……という実在、非実在の歴史上の人物が次々と登場する。

華氏451度

レイ・ブラッドベリ「華氏451度」

ブラッドベリの代表作の一つ。読書も書物の所有も禁じられた社会で、書き記すこと、を描いたかなりストレートな寓話だけど、本の消えた社会の光景は、現実の現代と怖いほど似ている。紙が燃え上がる温度を据えたタイトルは20世紀の小説でもトップクラスのセンスだと思う。

「わしたちには、いまやったことの愚劣さがわかるのだ。一千年ものながいあいだ、やりとおしてきた行為の愚劣さがわかるんだよ。それが理解できて、しかも、そのばかな結果を見ておるので、いつかは、やめるときがくる」

Self-Reference ENGINE

円城塔「Self-Reference ENGINE」

時間が壊れた世界を描くSF長編(短編連作)。時間軸と共に物語も拡散し、難解と言うよりも煙に巻かれた感じ。個々のエピソードや文章には気の利いたユーモアが溢れ、ところどころ非常に面白い。ボルヘス、安部公房、小松左京あたりを混ぜたような雰囲気がある。