ニキの屈辱

山崎ナオコーラ「ニキの屈辱」

ストレートな恋愛小説。読み心地も、読後感も漫画っぽい。気鋭の女性写真家、ニキとその助手。ニキのツンデレがテンプレ過ぎて、しかもデレの部分が甘さ強めで読んでいてしんどかったけど、終盤の、苦くて、切なくて、爽やかな感じはなかなか。

精霊の守り人

上橋菜穂子「精霊の守り人」

久しぶりにファンタジーを読みたいと思って、読んだことの無かった著者の代表作を。ストレートな異世界ファンタジーだけど、その背景に文化人類学的、構造主義的な骨太の世界観があって、現実のこの世界を描いているとも感じられる。大人になるとなかなか夢中になれるファンタジーって見つからないけど、これは3年くらい前に読んだル=グウィンの「西のはての年代記」に劣らぬ面白さ。

蒲田行進曲

つかこうへい「蒲田行進曲」

スターの「銀ちゃん」と、銀ちゃんに心酔する大部屋役者「ヤス」、銀ちゃんの女である「小夏」。3人の入り組んだ関係を描いた作品だが、とにかく人物造形が圧巻。傍若無人に振る舞いつつ、やたらと細かくて実は気が小さい銀ちゃん。いたぶられるほど、それを信頼だと喜ぶヤス。読んで笑いつつも、支配-被支配者が互いに依存し合う似たような現実の人間関係を思い浮かべ、胸が痛くなる。結局、どちらが本当に相手を支配しているのか分からない。もともと戯曲として書かれた作品だけど、小説としても完成されている。

青春の蹉跌

石川達三「青春の蹉跌」

青年期の思い上がりを描いた(爽やかさの全く無い)青春小説。登場人物がとにかくエゴイストで、読んでいて不快になること間違いなし。特に主人公は強い上昇志向とともに、自分は社会とうまく付き合うことができる、自らの運命を乗りこなせるという思い上がりを抱いていて、それが躓きを招く。自分はもっと謙虚だと思いつつ、気づかない場面で自分も自分の判断力を過信しているかもしれないと身につまされる。そしてまた、この主人公の自分が正しいと思い上がる徹底した独善性は、今の社会に通じる気持ち悪さがある。

戦場の軍法会議―日本兵はなぜ処刑されたのか

NHK取材班、北博昭「戦場の軍法会議 ―日本兵はなぜ処刑されたのか」

NHKのドキュメンタリーの書籍版。戦時中の軍法会議についての証言は極めて少なく、関連文書も終戦時に組織的に焼却されてしまったため、残っていない。法務官の生き残りの多くは戦後法曹界のエリートになっていて(このあたりは医学界の闇とも似ている)、口を閉ざしてきた。
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ある女

岩井秀人「ある女」

岸田賞受賞作。自分はこんなに変じゃないと笑いつつ、どこか身につまされる面白さが著者の作品にはある。この戯曲は、不倫の泥沼に沈んでいく女を描く。主人公を含めて登場人物が皆イタイ。笑いどころ沢山だが、ふと、人間、生きていく上で選択肢なんてそんなにないのかもしれない、と冷静になる。