家族喰い ―尼崎連続変死事件の真相

小野一光「家族喰い ―尼崎連続変死事件の真相」

疑似家族を精神的に支配し、血縁同士で暴力を振るわせ、親族の財産まで搾り取る。逃げ出しても追いかけ、気に入らなければ殺してしまう。

何より恐ろしいのは、普通の環境の、普通の感覚を持った人たちがちょっとした因縁で巻き込まれ、まともな生活も大人としての矜持も失ってしまうということ。
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芸能語源散策

小池章太郎「芸能語源散策」

古本屋で目についた一冊。「十八番」や「二枚目」、「三枚目」など、芝居由来ということが広く知られている言葉から、「お土砂」などのマイナーな言葉まで、語源を考察しながら歌舞伎の舞台裏などを綴ったエッセイ。ひと昔前の本だけあって、最近は見ない言葉まで載っているのが面白い。

「千松」なんて、『伽羅先代萩』や『伊達の十役』を見たことがあるから意味が推察できたものの、今でも使っているのだろうか。
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盆踊り 乱交の民俗学

下川耿史「盆踊り 乱交の民俗学」

副題にあるように盆踊りの発生を巡る考察を通じて乱交の歴史を紐解く。歌垣や雑魚寝という性の場と、芸能の起源としての風流(ふりゅう、現代の「風流」ではなく、侘び寂びに対峙する奇抜な美意識)、それらはやがて村落共同体で盆踊りへと洗練されていく。しかし、明治に入ると盆踊りは禁止され、同時に性の世界は日常生活の表舞台から消えてしまった。
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歌右衛門の六十年 ―ひとつの昭和歌舞伎史

「歌右衛門の六十年 ―ひとつの昭和歌舞伎史」

舞台では歌舞伎の華やかな面を、舞台裏では激しい権力闘争の面を、2代にわたって体現した歌右衛門。

団菊左亡き後の梨園を牛耳った五世。師でもある吉右衛門とコンビを組み、その後は幸四郎、勘三郎と競い、やがて戦後の歌舞伎界に君臨した六世。愛という表現がそぐわないほど、当然のように芸の世界に生き、執着した。
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歌舞伎

戸部銀作「歌舞伎」

古本で見つけた83年刊の歌舞伎入門。歌舞伎の演出を手がけている著者だけあって、見せ方の細かな技術に触れているのが興味深い。足の使い方や声の出し方、舞台上での役に応じた立ち位置など、歌舞伎が歴史を重ねる中で様々な手法を磨いてきたことが分かる。
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一条さゆりの性

駒田信二「一条さゆりの性」

伝説的ストリッパー、一条さゆりを描いた随筆のような小説集。かなり生々しい描写を含むが、なぜか温度の感じられない不思議な文章。作者の駒田信二が一条さゆりの激しい人生をあたたかく見つめているようでいて、むしろ、作家のまなざしを一条さゆりがあたたかく受け止めているように思える。そして、一条さゆりが感じている生きづらさに、読み手も自らのしんどさをどこか重ねてしまう。

せんべろ探偵が行く

中島らも、小堀純「せんべろ探偵が行く」

千円でべろべろ、略してせんべろ。大阪から始まる、ゆるーい大衆酒場紀行。この飲み歩きの少し後に中島らもは亡くなってしまう。既に身体はぼろぼろだったのだろう。体調不良を伺わせる描写があちこちに出てくるが、飄々とした不思議な魅力を放っている。彼の存在感、なぜ人を引きつけたのかが伝わってくる一冊。

あとかた

千早茜「あとかた」

デビュー作の「魚神」とはだいぶ違う雰囲気の連作短編。空虚な日常、日々の倦怠感、あるいはそこに端を発する不倫、のような話は既視感があるし、こういう表現はあまり使いたくないが、最初はかなり女性的な小説に感じた。ただ、読み進めるうちに不思議と引き込まれて、もっと先を読んでみたいと思ったし、読み終えて不思議と心に残った。現実感と非現実感の間をたゆたうような筆致、各短編の重なり具合なども巧みな印象。

魚神

千早茜「魚神」

どこの国の、いつの時代かも分からない掃溜めのような島で互いを心の拠り所に暮らしていた姉弟。伝説の遊女の名を継ぐ白亜、心を見せないスケキヨ。巨大魚と遊女の伝説。所々既視感はあるものの、デビュー作でこれだけ世界観を作ることができるのはかなりの大器を感じさせる。連作の絵画、あるいは耽美的な映像作品を見たような読後感。