石毛直道「世界の食べもの 食の文化地理」
とても面白いけど、アジア、オセアニア、北アフリカ以外の地域についてはほとんど触れられていないのがちょっと残念。取り上げられている地域については丁寧で読み応えがあるだけに、タイトルに相応しい完全版が読みたい。
馴染みがある中国料理も韓国料理もよく考えたらイメージどまりで、食文化としては実際には知らないことが多いと痛感。
読んだ本の記録。
安部公房「カンガルー・ノート」
かいわれ大根が脛に生えてきた男の地獄巡り。脈絡の無い、物語の飛翔の仕方が夢のよう。ただ意味不明なだけでなく、ちゃんと夢の論理のようにストーリーとスピード感があるのが凡百の前衛小説とは決定的に違う。
高校生のころに読んだ時にはなんとなく面白いという印象しか残らなかったが、今回はあまりに濃厚な死の雰囲気に胸が詰まった。病床の安部公房の夢が駆け巡った“枯野”なのだろう。
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安部公房「方舟さくら丸」
久しぶりに再読。
採石場跡に築いた巨大な地下シェルターで引きこもりのように暮らし、その“方舟”で滅亡後の世界を生き延びる仲間を探す男。わずかに湿り気のあるような、不快さを帯びた文章。人間の残忍さ、薄情さ、不安定さ、論理的であることの醜悪さ、現世の気持ち悪さを偽悪的にならずに書き得た希有な作家だったと改めて感じる。
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喜志哲雄「喜劇の手法 笑いのしくみを探る」
「喜劇」は笑いを追求する他の芸能とは違う仕組みを持っている。考察は少なく、あらすじと構造の紹介が続いて読み物としてはちょっとしんどいが、名作と呼ばれる作品がいかに巧みに構築されているかが分かる。
観客が作品内の情報を、どの段階で、どの程度掴むのか。劇と観客の距離によって、同じ出来事が喜劇にも悲劇にも映る。
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宮本常一「家郷の訓」
宮本常一の代表作の一つ。地域社会で子供がどう育てられたのか、故郷・周防大島での、幼少期の自らの経験をもとに綴った克明な生活誌。一種の自伝ともいえ、ただ静的で、因習にとらわれているだけではなかった村の生活が鮮やかに記されている。
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平田オリザ「演劇入門」
平田オリザによる戯曲の書き方を通じた演劇論。
「伝えたいことなど何もない。でも表現したいことは山ほどある」という表明はポストモダンの芸術全般に通じる。
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網野善彦「宮本常一『忘れられた日本人』を読む」
文字資料に頼る歴史は、時代を経るごとに社会の多様さを見落としていく。
百姓、女性、老人、子供、遍歴民……日本列島の無文字社会を蘇らせる試みを続けた宮本常一。中世史家の網野善彦がその代表作を読み解く。
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伊藤計劃「The Indifference Engine」
伊藤計劃の遺したわずかな短篇を集めたもの。どの作品も、生きて、長篇として徹底的に書き込んでほしかった。
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