彼の娘

飴屋法水「彼の娘」

飴屋法水は1961年生まれ。唐十郎の状況劇場を経て劇団グランギニョルを旗揚げし、その後、現代美術の領域に移行して先鋭的な表現を次々と打ち出してきた。95年、珍獣を扱うペットショップを開き、突如表現の場から身を引いたが、近年再び活動を再開。2013年に福島県いわき市の高校生と作り上げた「ブルーシート」は岸田國士戯曲賞を受賞した。

「彼の娘」の“彼”は著者の飴屋法水自身で、“娘”は彼が45歳の時に授かった“くんちゃん”のこと。

大切なもの、大切な人は誰にでもあるが、それは主観的で個人的なものでしかない。著者の思想の根本にあるのが、どんな命も究極的には等価であるということ。娘との日々を書いた喜びに満ちた私小説でありながら、その筆は常に客観的に彼と彼女の関係を綴っていく。
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鳳仙花

中上健次「鳳仙花」

 

 十数年ぶりに再読。「路地」という極めて小さな世界を描きながら神話的といわれる中上健次の作品群において、まさに神話の始まりを綴った作品。

 「岬」「枯木灘」「地の果て至上の時」三部作の主人公・秋幸の母フサは、兄への憧憬を抱えながら、15歳で故郷の古座を離れて新宮に奉公に出る。勝一郎、龍造、繁蔵の3人の男と出会ったフサは、性を知り、子を産み、母として豊穣な物語の源流となる。
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ブルーシート

飴屋法水「ブルーシート」

現代美術の領域でも活躍してきた飴屋法水の作・演出で、2013年に福島県の高校生によって上演された作品。多くの死と日常の消失を目の当たりにした高校生の“もがき”のようなものが、抽象的な断片の積み重ねと瑞々しい言葉で綴られている。第58回岸田國士戯曲賞受賞作。
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ファミコンとその時代

上村雅之、細井浩一、中村彰憲「ファミコンとその時代」

ビデオゲームの誕生から、ファミコンの登場、流行まで。主著者の上村雅之氏はファミコンの開発者の一人であり、まさにテレビゲームの正史と呼べる一冊。社会、経済の変化を扱った読み物としても非常に読み応えがある。ファミコンの発売30周年を迎えた2013年の刊。ファミコン世代にとっては、自分たちの時代を客観視するためにも必読の一冊。
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あすなろ物語

井上靖「あすなろ物語」

自分が何者にもなれないのかもしれないという現実を、人が初めて見つめるのはいつのことだろうか。

「あすは檜になろう、あすは檜になろうと一生懸命考えている木よ。でも、永久に檜にはなれないんだって!」

翌檜(あすなろ)の名は「明日は檜になろう」という言葉から来ているという。明日は何者かになろうと夢見る青年たちの姿を描く井上靖の初期の代表作。六つの短編で、少年・鮎太の成長を綴る。
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夏の砦

辻邦生「夏の砦」

辻邦生の初期の長編。中世のタピスリに惹かれ、北欧で染織工芸を学ぶ支倉冬子の魂の遍歴を、彼女が失踪する前に残した膨大な手記と手紙から浮かび上がらせる。

知人男性の視点を通して一筋の物語になってはいるが、おそらくこの小説は、どこか一部分を切り出しても成立するだろう。著者自身の死生観や芸術論が、作品の隅々にまで刻み込まれている。
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とんでも春画 妖怪・幽霊・けものたち

鈴木堅弘「とんでも春画 妖怪・幽霊・けものたち」

江戸時代、春画は決して異端の芸術ではなく、大衆的な広がりを持った文化だった。2015、16年に東京・京都で春画展が開かれ、春画に対する注目が高まったが、メディアで紹介される春画は“常識的”なものが多い。しかし、性的なタブーの少なかった近世以前の日本において、人々の想像力が現代の常識の枠内に収まっているはずがない。少しでも目立とうとする芸術家と版元の世界においては言うまでもなく、葛飾北斎には有名な「蛸と海女」があるし、男色、獣姦、幽霊・妖怪との交わりなど、ありとあらゆる営みが春画には描かれている。

本書はそうした多彩な春画約130点を掲載。表紙の骸骨は歌川国芳(股間の骨に注目)。
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