原武史「皇后考」
天皇に比べて皇后に関する書物は少ないが、近代以降の天皇制においては、天皇とともに皇后の存在も重要であることは論をまたない。皇后は生まれながらの皇后ではない。だからこそ皇后は自ら皇后像を作り出さねばならず、皇后の存在には国民と皇室との関係が現れている。
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読んだ本の記録。
原武史「皇后考」
天皇に比べて皇后に関する書物は少ないが、近代以降の天皇制においては、天皇とともに皇后の存在も重要であることは論をまたない。皇后は生まれながらの皇后ではない。だからこそ皇后は自ら皇后像を作り出さねばならず、皇后の存在には国民と皇室との関係が現れている。
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松井今朝子「吉原手引草」
吉原で起きた花魁失踪事件を巡って、関係者一人一人の語りで徐々に真実を明らかにしていく。ミステリータッチの物語の面白さもさることながら、タイトルに「手引草」とあるように、語りを通じて、吉原の仕組みから作法まで分かるよう書かれている構成がみごと。内儀、番頭、新造、幇間、芸者、女衒――といった立場の登場人物の口から語られるのは、初会や水揚げ、身請けなどまさに一から十まで。
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島田荘司「占星術殺人事件 改訂完全版」
以前はミステリーはほとんど読まなかったけど、有名作家の作品くらいは一通り読んでおこうと3、4年前から少しずつ読み始めて初島田荘司。「新本格」の火付け役となったミステリー史に残る名作。
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中屋敷均「ウイルスは生きている」
生命とは何か、について考えさせられる刺激的な1冊。
ウイルスは教科書的な知識では非生命とされる。単体で代謝機能を持たず、細胞に入らなくては増殖できない。ただ、生命とされているものにも代謝を外部環境に頼るものがあるし、生命と非生命の境界は思うほどには明確ではない。
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船戸与一「夢は荒れ地を」
カンボジアを舞台に、人捜しから始まった物語は、人身売買、汚職、地雷撤去を巡る利権争いなど、国家と人間の闇に深く分け入っていく。元クメール・ルージュらの新たな村作り、識字率を上げようと奮闘する日本人、そしてもう一人……。カンボジアの闇に取りつかれ、夢は荒れ地を駆け巡る。
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ロバート・P・クリース「世界でもっとも美しい10の科学実験」
ムック本のような邦題だけど、科学史家による読み応えのある一冊。
“美”はただ整っているということだけを意味しない。優れた芸術作品は、それが絵画であっても、文学や音楽でも、世界の見え方を多少なりとも変えてしまう。それこそが美なのだとしたら、科学実験も同様に美しい。
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井出幸男「宮本常一と土佐源氏の真実」
宮本常一が記した文章で最も有名な「土佐源氏」。老博労の聞き書きで、前近代の庶民の性に関する民俗学資料として評価されてきたが、そこに創作、脚色が混ざっていることも以前から指摘されてきた。著者は、宮本常一の若き日の恋愛遍歴にまで踏み込んで、土佐源氏に投影された宮本自身の体験を探っていく。
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角田光代「ツリーハウス」
家族の物語。満州で出会った祖父と祖母は生きるために戦争から逃げた。敗戦後、戻る場所もなく、根を失ったままバラック街の一角で中華料理屋を始める。子供たちが育ち、孫たちが生まれ、それぞれに不器用に何かを失い、何かを得ながら生きていく。時に迷い、時に「大丈夫だ」というよく分からない感覚に流され、子供は大人に、大人は老人になっていく。そうしていつの間にか、根を失ったはずの自分たちの人生が根を張っていることに気付く。
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平野啓一郎「決壊」
「悪魔」を名乗る人物からのメッセージが添えられたバラバラ死体が各地で見つかる。悪魔は社会からの「離脱」を呼びかけ、無差別殺人が連鎖する。中盤まではミステリー風の物語展開だが、ミステリーに期待するような種明かしは訪れない。過剰な会話など、むしろドストエフスキー的な思想小説。登場人物一人一人の内面を多視点で徹底的に掘り下げていく叙述は最近の作家では珍しい。
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