ゲームでも小説でも、ファンタジー作品の魅力を大きく左右するのが、自分がその世界に行ったら、という妄想が捗るかどうかだと個人的には思っている。その点で著者の作品はその妄想が非常に楽しい。
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兄の終い
ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい
表題作は、ぬいぐるみサークルの男女を中心とした物語。主人公は人を傷付けることを病的なまでに忌避し、他者の事情に踏み込むことに対して極めて臆病。恋バナに乗れず、男同士の露骨な会話に生理的な嫌悪感を抱く。自分が男であるというだけで、加害者の立場にいると気にしている。
こういう感性の人は昔からいただろうが、その消極的な“優しさ”は非常に現代的だと感じる。令和文学史、あるいは2020年代文学史が語られる時に、その初めに登場する作品になるかもしれない。
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あなたが私を竹槍で突き殺す前に
最近読んだ中で最も挑発的な小説。緊張感、スピード感のある展開はエンタメ性豊かだが、物語は非常に重く、読者に差別や社会運動について考えることを強いる。
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禅銃(ゼン・ガン)
「カエアンの聖衣」が非常に面白かったので、同じくコアなファンの多い「禅銃」も。
反乱で崩壊に危機に瀕した帝国、他の宇宙からの干渉、究極の戦士「小姓」、小さくも強力な兵器「禅銃」――など、SFやファンタジー好きの心をくすぐる設定盛りだくさん。
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ヒッキーヒッキーシェイク
引きこもりたちが、変わり者のカウンセラーの呼びかけで、「不気味の谷」を超えたバーチャルアイドル創作のプロジェクトに参加する。
荒唐無稽だが、決してスケールが大きいわけでも無い。それでもどこか惹かれる。不思議な手触りの小説。
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曲がれ!スプーン
上田誠「曲がれ!スプーン」
*戯曲(読み物)としての面白さ。上演は☆5
「曲がれ!スプーン」(冬のユリゲラー)と「サマータイムマシン・ブルース」。ともに映画化もされた劇団「ヨーロッパ企画」の初期の代表作2本。
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希望の国のエクソダス
「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない」
景気の停滞が続き、国際金融資本の食い物にされる日本。集団不登校となった中学生たちがインターネットを駆使したビジネスを始め、国家から独立した集団に育っていく。
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恋愛中毒
女にだらしない作家の秘書として働くようになったバツイチ女性の物語。結婚生活の失敗から心を閉ざした主人公の水無月は、既婚者の創路には都合のいい女に過ぎないことを自ら理解していたはずなのに、徐々に執着が生まれ、袋小路に陥る。
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春、死なん
「高齢者の性」をテーマとして謳い、実際にそこが注目されてもいるが、描かれているのはもっと本質的な孤独、周囲の目と自我の摩擦の苦しみ。性は要素の一つに過ぎない。(高齢者の性を描いた作品はそもそも珍しくないし、本作の性に関する描写は実は少ない)
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