戦後の雑誌文化の興隆期に、ある出版社で知り合った三人の女性の物語。
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図書室
著者の書く文章には、温かな諦念というようなまなざしが常に感じられる。諦念というとネガティブに聞こえるが、それは自分や他者の人生に対する肯定と一体となっている。
表題作は、五十歳の「私」が、幼い頃に通った公民館の図書室で出会った少年との思い出を振り返る。小学生の二人が交わす大阪弁の会話がほほ笑ましい。人類が滅亡した後にどうすれば生き残れるか。切なく、おかしく、どこか温かい記憶。
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未来の年表
河合雅司「未来の年表 人口減少日本でこれから起きること」
「未来の年表2 人口減少日本であなたに起きること」
高齢化、人口減少が進む日本社会の今後の姿を、統計を元に時系列で予測する。
2024年には3人に1人が65歳以上となり、日本は本格的に高齢者の国になる。生産年齢人口は2015~2040年の25年間で約1750万人減少し、労働力不足も深刻化していく。2033年には全国の住宅の3戸に1戸が空き家になり、2040年には自治体の半数が消滅の危機に。都市部にいるとまだ危機感が薄いが、2025年には東京でも人口が減少し始め、2045年には都民の3人に1人が高齢者となる。輸血用血液や火葬場の不足も深刻化する。
現在1億2600万人いる総人口は2065年に8800万人まで減り、2.5人に1人が高齢者となる。そう言われてもこれまでは遠い未来の話のような気がしていたが、今の小学生は2065年時点でまだ50代で、今年生まれた子は46歳。彼らは限界集落化していく社会の中を生きなくてはならない。
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なめらかな世界と、その敵
SF界の新星として話題になっている著者の短編集。
表題作は、可能世界を自由に行き来することができるようになった人々が暮らす世界が舞台。並行世界や可能世界というと重厚なイメージが強いが、無数の「こうだったかもしれない世界」を飛び回る少女たちの青春を生き生きと描いている。
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この世にたやすい仕事はない
前職で燃え尽きた36歳の女性が職安で紹介された仕事を転々としていく連作短編集。「コラーゲンの抽出を見守るような仕事」というふざけた要望に対して紹介されたちょっと奇妙な五つの仕事を通じて、主人公は自分の居場所を探していく。
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この人の閾
著者の小説は変わっていて、物語的な起伏がほとんどないだけでなく、登場人物の散漫な会話や日常生活がだらだらと綴られるものが多いのだけど、平易な文体と相まってそれが心地良く、いつまでも読んでいたいという気にさせられる。登場人物のとりとめもない思索は、不思議と読み手の思考も刺激する。
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ヤマネコ・ドーム
一言で説明するのは難しい。明らかに震災と原発事故を踏まえて書かれた作品だが、時系列も視点もあえて混乱させた多声的な文体で、日本の戦後史そのものを問う物語となっている。
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ファーストラヴ
第159回(2018年上半期)直木賞受賞作。
父親を殺した容疑で逮捕された女子大生、聖山環菜と、彼女についてのノンフィクション執筆を依頼された臨床心理・真壁由紀、その義弟で環菜の弁護人・庵野迦葉を軸に物語が進む。
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楽園
宙の家
先日発表された直木賞を受賞した作家の単行本デビュー作。
(本作ですばる文学賞最終候補に残り、その後に文学界新人賞受賞)
マンションの11階で、祖母と母、弟と暮らす女子高生、雛子の物語。
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