表題作は「サンプル」の松井周との共同取材・原案プロジェクト「inseparable」で書かれた中編。架空の島を舞台に、信仰や歴史といった「常識」がいとも簡単に覆ってしまう様を描く。
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生命式
ディストピア的な作品を多く書いている作家だが、SF小説のような暗い未来を予言したいわけではなく、むしろ、自明と思われる常識や文化に対する疑いが創作の原動力になっているように思える。
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地球にちりばめられて
近未来と思しきヨーロッパを舞台に、言語とアイデンティティの問題を鋭く問う作品。と言われると読む気が失せるが、決して肩肘張ったお堅い小説ではなく、軽妙洒脱なユーモアが全編に満ちている。
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掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集
2004年の死後、再評価が進む米国の作家。初の邦訳短編集。
レイモンド・カーヴァーをより泥臭く、スレたようにした印象。一方に想像力の極北というようなスケールの大きな物語があり、一方にこうしたミニマルで、個々の人生、日々の生活から生まれたような作品があるのが米文学の面白さ。
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ケーキの切れない非行少年たち
少し遅れて、話題の新書。著者は医療少年院などで働いてきた児童精神科医。タイトルや帯にあるように、丸いケーキを均等に切り分けられない子供たちがいるという事実が目を引くが、「最近の子供は学力が低下している」というようなありふれた内容ではない。著者は教育の本質的なあり方を問う。
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森があふれる
妻の体から発芽して文字通り森になる、というとカフカや安部公房的な不条理小説のようだが、不条理を描くというよりはストレートな恋愛小説。森はメタファーを具象化した小説的な仕掛けに過ぎない。ただ、その光景は美しい。
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傲慢と善良
「仲野教授の そろそろ大阪の話をしよう」
仲野徹・大阪大教授と大阪にまつわる専門家らの対談集。テーマは歴史、言葉、食から、音楽、落語、花街、鉄道など多岐にわたる。気楽な読み物であると同時に、内容はディープ。「面白い対談」の見本のような一冊。
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キュー
石原莞爾の思想が語られる戦中・戦後、心療内科医の主人公が奇妙な体験をする現代、「個」が廃止された地球で現代人のGenius lul-lulがコールドスリープから目を覚ます未来の三つの時代が交互に描かれる。
効率、必然で歴史が進んでいくとしたら、人間を人間たらしめているのは、それに抗う力なのかもしれない。
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死にがいを求めて生きているの
ゆとり教育を挙げるまでもなく、平成という時代は(表面的には)競争や対立を忌避してきた。その平成が終わった今、世の中はどうしてこんなにギスギスしているのか。
ある事故で意識を失ったままの智也と、彼を献身的に見舞う雄介の2人を軸に平成に育った男女の姿を描く。表面上は親しげに接しながら、言葉の端々でマウントを取り合う様が生々しい。
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