2015年上半期の直木賞受賞作。この回は芥川賞の又吉直樹「火花」が話題をほぼ独占してしまったが、直木賞のこの作品も近年にない傑作として異例の高い評価を集めた。
舞台は戦後の台湾。抗日戦争から国共内戦の時代を生き延び、大陸から台湾に渡った祖父の死を巡る謎を背景として、語り手の「私」の青春が綴られる。猥雑で熱気あふれる台湾の街の描写は、匂いが漂ってくるよう。
“流” の続きを読む
読んだ本の記録。
2015年上半期の直木賞受賞作。この回は芥川賞の又吉直樹「火花」が話題をほぼ独占してしまったが、直木賞のこの作品も近年にない傑作として異例の高い評価を集めた。
舞台は戦後の台湾。抗日戦争から国共内戦の時代を生き延び、大陸から台湾に渡った祖父の死を巡る謎を背景として、語り手の「私」の青春が綴られる。猥雑で熱気あふれる台湾の街の描写は、匂いが漂ってくるよう。
“流” の続きを読む
小説はうそをつきやすい。真顔で出鱈目を書き連ね、うそと真実の境界を無効化してしまうことができる。高橋源一郎のこの小説は、新たな日本語文学を生み出そうと苦闘した近代作家たちの姿を描きながら、そこにさも当然のような顔で現代の風俗が紛れ込んでいる奇妙な長編小説。そこでは史実と妄想の境界は曖昧になり、うそと真実が重なり合う。
“日本文学盛衰史” の続きを読む
上海からバリ、インドまで、アジアのさまざまな国を舞台にした中島らもの短編集。寓話のようなエピソードから、日常を切り取った一篇まで、短くも鮮やか、不思議な読後感がまさに“らも節”。食事の描写が多く、その土地の匂いが漂ってくる。
“エキゾティカ” の続きを読む
トルコ、レバノン、モロッコ、エジプト、イエメン、イスラエル。音楽ライターの著者が中東を旅しつつ、各地の食文化に触れ、現地の料理を習っていく。レシピ付きエッセイ本というより、エッセイ付きレシピ本と言った方がふさわしいくらい各章末のレシピが充実しており、その数52品。いずれも日本で再現可能で、実用性も高い。
“おいしい中東・イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅” の続きを読む
1年半ほど前、バリン会談を再現したマーク・テのパフォーマンスを見て、マレーシア、ひいては東南アジアの現代史を全然知らない自分に気づき愕然とした。その後、手頃な概説書を探したが、戦後史に関して新書や文庫で気軽に読める本がほとんどないことを知り、重ねて驚いた。言うまでも無く、東南アジアは日本との結びつきも強く、在留邦人や旅行者の数も多い。比較的身近な地域であるにも拘わらず、経済的な面を除いてはあまり関心を寄せられてこなかった。
“入門 東南アジア近現代史” の続きを読む
生野区から東成区にまたがる猪飼野地域は、現在も多くの在日コリアンが暮らす町だが、戦後間もない頃は愚連隊とヤクザが跋扈する一帯としても知られた。戦後大阪で一大勢力を築いた明友会は、その猪飼野で生まれた在日朝鮮人の愚連隊で、山口組との抗争に敗れて消滅した。
猪飼野で生まれ育った著者は、日夜喧嘩に明け暮れる仲間たちとともに少年期を過ごした。不良少年たちは、「三国人」と呼ばれた親たちの葛藤を目の当たりにしながら、愚連隊の兄貴分たちの後を追うように成長していく。やがて明友会が山口組に敗れ、社会が高度経済成長に湧くようになる頃、街の風景も変わっていく。
“完全版 猪飼野少年愚連隊 奴らが哭くまえに” の続きを読む
1992~2006年に書かれた作品を集めた短編集。文学的修辞を用いずに、人間関係の微妙な空気を描かせたら著者の右に出る作家はそうそういないと思うが、粗削りな初期の作品にもその片鱗は伺える。
“ロック母” の続きを読む
新潮新人賞、芥川賞受賞作。主人公はチェンナイで暮らす日本語教師の女性。大洪水の翌日に橋の上で見た光景を通じて、さまざまな物語が浮かび上がる。
ひと言でまとめてしまえばマジックリアリズムだが、随所にユーモアがあり、敬意を込めてホラ話と評する方がふさわしい気がする。「インドを舞台とした小説」と言うより、「どこまで本当か分からないインド滞在記」という手触りで楽しく読めた。
“百年泥” の続きを読む
梅崎春生には「桜島」など戦争を題材とした作品群と庶民の生活を描いたものがあり、こちらは後者を集めたもの。
ひょんなことから始まったボロ家での同居生活を描いた表題作がめっぽう面白い。だまされてボロ家を間借りすることになった主人公のもとに、同じくだまされてボロ家を買わされた男が現れる。お互いに牽制し合う奇妙な同居生活がユーモラスな文体で綴られる。
“ボロ家の春秋” の続きを読む
表題作以外の短編も同じ集落を舞台にしており、全体として土地を描いているという点では中上健次などに連なるものを感じさせる。ただ良くも悪くも中上ほどの破綻は無く、神話的な重力はない。
“九年前の祈り” の続きを読む