ホサナ

町田康「ホサナ」

大傑作「告白」に匹敵する約700ページの大作。愛犬家の主人公は、ある日、“日本くるぶし”と名乗る神なのか何なのか分からない声から「正しいバーベーキューをせよ」という啓示を受ける。

物語は繰り返し思索の脇道にそれ、思索もひたすら脇道にそれ続ける。予定調和からは程遠い、無茶苦茶な展開がこれでもかというほど積み重ねられる。こんな突拍子もない物語を綴ることができるのも、饒舌な文体を持っているからこそ。
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パラレル

長嶋有「パラレル」

デビュー作「サイドカーに犬」、芥川賞受賞作「猛スピードで母は」から、人間同士の微妙な距離感を描くのが巧い作家。

主人公の男は元ゲームデザイナー、今無職。妻の浮気で離婚したものの、その後も他愛のないメールのやりとりを続け、親しい友人としての距離を保っている。大きなアクシデントも、劇的な展開もそこにはない。過去の回想が挟まれつつ、淡々と日常が続いていく。
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グアテマラの弟

片桐はいり「グアテマラの弟」

エッセイの名手とは聞いたことがあったが、これほど素敵な文章を書く人だとは。グアテマラで暮らしている弟を訪ねた旅の話に、幼い頃の家族の思い出などが挟まれる。少し手を入れるだけで、それぞれのエピソードがそのまま洒落た短編小説になりそうな趣がある。
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良寛 旅と人生 <ビギナーズ・クラシックス 日本の古典>

松本市壽「良寛 旅と人生 <ビギナーズ・クラシックス 日本の古典>」

非常によくまとまっていて入門にも最適の一冊。個人的には良寛というと漢詩のイメージが強かったが、改めてその作品と生涯に触れ、晩年の歌が強く心に残った。

「手ぬぐひで 年をかくすや 盆踊り」
「形見とて 何残すらむ 春は花 夏ほととぎす 秋はもみぢ葉」
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ジュライホテル バンコクの伝説の安宿

及川タケシ「ジュライホテル バンコクの伝説の安宿」

バンコクの安宿街といったらカオサン通りが有名(今はもう違うかも)だが、90年代半ばまではカオサンに滞在するのは欧米人が中心で、日本人旅行者の溜まり場はチャイナタウンだった。自分は直接その時代を知るわけではないが、楽宮旅社や台北旅社、ジュライホテルの名前は、アジアを旅したことがあるバックパッカーなら聞いたことがある人も多いのではないかと思う。
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