芥川賞を受賞しながらも、世間から忘れられてしまった作家は少なくない。著者もその一人に挙げられることが多いが、「忘れられた」と一言で形容するには、その半生は複雑で起伏に富んでいる。
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京都恋地獄
京都を舞台とした恋愛ホラー小説。恋した男を失って京都に移り住んだ女性作家の話と、幽霊が見えるという墓守娘の話が交互に紡がれる。静かな語り口に激しい情念が滲む。
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浮遊霊ブラジル
アイルランドへの旅行を前に死んでしまい、未練から浮遊霊となった72歳の男の姿を描いた表題作が面白い。
身体が壁をすり抜け、建物に自由に出入りできる一方、車や電車に乗ることができず、歩く速度でしか動けない。下心から近所の銭湯に行ってみるも同世代しかおらず、無為な日常に飽きてしまったところで、人に取り憑いて移動できることに気付く。そこから憑依を重ねるも念願のアイルランドは遠く、不思議な巡り合わせでブラジルに辿りついてしまう。
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鼻
後味の悪い短編3本。いずれも設定と構成が秀逸。
表題作は、人間が外見で「ブタ」と「テング」に二分された社会が舞台。迫害を受ける「テング」の子供の転換手術を依頼された医師の視点で物語が進む。そこに少女の行方不明事件を追う刑事の話が挟まれ、やがて二つの物語が意外な形で繫がる。
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献灯使
表題作は、原発事故を思わせる大災害を経て鎖国した日本が舞台。老人は死なず、若年層は虚弱で早世の運命にある。主人公の義郎は100歳を超え、食事も着替えも一人ではままならない曾孫の無名の世話をしながら暮らしている。
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無職無宿虫の息
「一席、おつきあいをねがいます。らちもない無頼のお話で、暢気なだけがご景物であります」
「ほれてかよえば千里も一里、ふられてかえればまた千里。――ぐれてのたくりゃ一里も千里、足を洗うにまた千里」
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星宿海への道
旅行先のカシュガルで失踪した男を巡る物語。黄河の源流にあるという星宿海に幼い頃から惹かれ続けた男の半生が、その弟と恋人の視点を通じて浮かび上がる。
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ニムロッド
2018年下半期の芥川賞受賞作。
会社の新規事業としてビットコインのマイニングを任された主人公と、その恋人、同僚で作家志望だった男。3人の関係を軸に現代の日常が綴られ、そこに男がメールで送ってくる「駄目な飛行機コレクション」の話が挿入される。
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82年生まれ、キム・ジヨン
韓国でベストセラーになった“フェミニズム小説”。1982年生まれのキム・ジヨンの半生を通じて、女性の生きづらさを浮かび上がらせる。
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