玄月「蔭の棲みか」
朝鮮人集落を舞台とした表題作は正攻法の純文学。主人公のソバンの、70年余りの人生を生きた上での軽さや頼りなさ、意固地さが印象的な一方、他の登場人物の描写は少し曖昧で不自然に感じる。
併録の「おっぱい」の方が、いい加減だけど著者のユーモアが強調されていて読んで面白い。特にラストの雑さに味がある。
読んだ本の記録。
津村節子「紅梅」
吉村昭が亡くなるまでの1年半。主人公に育子という三人称を設定しているが、登場人物を夫、息子、娘と呼ぶ語りは完全に一人称視点。舌癌と膵がんの闘病生活は凄絶なものだったろうが、淡々とした描写はそれを感じさせない。
「夫は、胸に埋め込んであるカテーテルポートを、ひきむしってしまった。育子には聞き取れなかったが、『もう死ぬ』と言った、と娘が育子に告げた」
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中島らも「水に似た感情」
不思議な魅力にあふれた小説。自身の体験を書いているという意味では、エッセイやノンフィクションとも言えるかもしれない。
取材で訪れたバリを舞台に躁病が高じていく前半と、入院を経て島を再訪する、不思議な静けさに満ちた後半。シンプルな中島らもの文体も、特に特徴が無いのに、読みやすいだけでなく、読んでいて少しずつ心が落ち着いていく。
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村上春樹「めくらやなぎと眠る女」
海外向けに編集された短篇集。ベスト盤的な内容で、「東京奇譚集」が丸々収録されていることもあって、初めて村上春樹の短編を読んでみようという人にもオススメの一冊。
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