知の逆転

ジャレド・ダイアモンド、ノーム・チョムスキー、オリバー・サックス、マービン・ミンスキー、トム・レイトン、ジェームズ・ワトソン「知の逆転」

ジャレド・ダイアモンド、ノーム・チョムスキー、オリバー・サックスの3人のインタビューは刺激的でとても面白い。

テクノロジーの変化が加速し、社会における高齢者の役割が不明確になってきている。資本主義という概念は空虚で、多くの新技術は経済の公共部門から生まれ、最も市場原理に純粋な金融こそ最も機能不全に陥りやすい。音楽は他の記憶よりも深く脳に残されている……などなど。

残りの3人のインタビューは、それぞれの専門分野の話にうまく切り込めていなくて少し物足りない印象。そして専門外の話は少し説教臭い。

宗教で読む戦国時代

神田千里「宗教で読む戦国時代」

カトリック宣教師が直面した中世日本の仏教と「天道」思想。キリスト教と似た側面にとまどいつつも、悪魔が拵えたものと非難した排他性が追放令につながっていく。

宗教一揆として知られる一向一揆は政治的な対立に宗徒が動員されただけで、権力者は宗教を利用しようとはしても、弾圧に熱心だったわけではない。信長対本願寺も捏造も含めて事後的に語られたもので、信長は宗教的には常識人だったという。

中世日本の精神性を理想化しすぎている気もするけど、かなり面白い。戦国大名の切った張ったばかりが注目されるけど、中世は文化史が熱い。

戦場の精神史 武士道という幻影

佐伯真一「戦場の精神史 武士道という幻影」

多くの軍記物に記されつつも、あまり注目されない騙し討ちの場面。戦場で生まれた「武士道」は本来、虚偽・謀略を働いてでも、勝つこと、功名を立てることが第一であった。

合戦が遠い存在となった近世の太平の世で、当時は異端とも言える「葉隠」が生まれ、明治には新渡戸稲造の「武士道」が広く読まれるようになる。
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街場の文体論

内田樹「街場の文体論」

久しぶりに著者の本を手にとった。コミュニケーション論の総括的な内容で、バルトやソシュールに触れつつ、後半はこれまで繰り返し語ってきた内容に着地。メタ・メッセージの重要性。

ほかにも、丸山真男が海外でも度々参照されるのに吉本隆明がほとんど翻訳されない理由や、司馬遼太郎の内向きさなど、結構示唆に富んでて面白い。
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夢よりも深い覚醒へ ―3・11後の哲学

大澤真幸「夢よりも深い覚醒へ ―3・11後の哲学」

リスク社会では中庸は最も無意味な選択肢になり、人は「リスクの致命的な大きさ」より、「リスクは事実上起きない」に傾いてしまう。命と経済性の天秤――倫理的に答えは明らかだが、その命が、想像の及ばない不確定な未来の命になった時、それは答えの無い“ソフィーの選択”になる。

原発事故を総括し、脱原発への思想を立ち上げようという試み。
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ドン・ファンの教え

カルロス・カスタネダ「ドン・ファンの教え」

ヤキ族の呪術についての民族誌の形をとりながら、完全なフィクションという指摘もある不思議な本。幻覚性植物の体験が延々と綴られ、読み終えると別の世界を見てきたようで、すーっとする。

それぞれの民族にとって世界は違った形をしている。時間の流れも、死と生の境目も、人間と非人間の区別も異なる世界がある。

ドン・ファンは、いかに“知者”になるかを説く。いかなる道も道にすぎず、知者は心ある道を行く。知者の4つの敵は、恐怖、明晰さ、力、老齢。その旅は死ぬまで終わることはない。

西洋中世の罪と罰 亡霊の社会史

阿部謹也「西洋中世の罪と罰 亡霊の社会史」

粗野で生者に災いをなす死者は、キリスト教と共に、生者に助けを求める哀れな死者へイメージを変えた。アイスランド・サガなどからの引用で古代ゲルマンの世界観を説明しながら、キリスト教がどう受容されていくのかを描く。
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