地図から読む歴史

足利健亮「地図から読む歴史」

地形や地名に残された微かな意志の断片をもとに歴史を読み解く歴史地理学のエッセンスが詰まった一冊。

郡境がなぜ今のように定まったのか、信長がなぜ安土に城を築いたのか、飛鳥をあすかと読む理由は……。本当に面白くて刺激的な分野。
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河野広中小伝

高橋哲夫「河野広中小伝」

河野広中は、明治・大正期の政治家で自由民権運動の活動家。福島に住んだり、日本史を学んでいればよく聞く名前だろうけど、今となっては一般的にはそれほど知名度は無いかもしれない。

福島は自由民権運動の先進地であると共に、国会より早く全国初の民会(公選議会)が設置された県でもある。明治14年には議長だった河野広中が中心となって、普通選挙を国に提言している。実際に普選法が成立するより半世紀近く早い。
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ニッポン異国紀行 ―在日外国人のカネ・性愛・死

石井光太「ニッポン異国紀行 ―在日外国人のカネ・性愛・死」

土葬が原則のイスラム教徒など、在日外国人が亡くなると遺体はどうなるのだろう。結婚、風俗、宣教、医療など、同じ日本で暮らしているのに、その生活についてほとんど知らないことを思い知らされる。彼らの生活と、その他大多数の日本人の間には、エンバーミングを担う葬儀社などわずかな接点だけが存在し、互いに孤絶している。

天皇家の財布

森暢平「天皇家の財布」

天皇家と皇族でお金がどのように使われているのか。

公的な宮廷費と私的な内廷費、その曖昧な使い分けと憲法解釈で政教分離など様々な課題をクリアしていることなど、なかなか面白い。親王と内親王の教育費の出所、天皇と皇后の入院費用の出所がそれぞれ宮廷費、内廷費と分けていることなど、現代の感覚からすれば逆に問題があるんじゃないかと思うことも。

皇族費がどのような基準で配分されているかや、献上、賜与の上限額なども、細かな点ながら勉強になる。

「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか

開沼博「『フクシマ』論 原子力ムラはなぜ生まれたのか」

地方が自発的、自動的に中央に服従し、原発を抱きしめていく歴史。それを説明するには財政だけでなく、文化的、心情的な側面にも触れなくてはならない。原発推進派も反対派も語ることがない立地地域の実情を丁寧に追っている。

福島、それも原発に近い地域に住んだことがある人間なら、ここに書かれていることは当たり前で目新しさは無い。原発事故前に書かれた修士論文がもとで、地方を「植民地」と位置づける考察も単純すぎる気がするが、今だからこそ多くの人に知ってもらいたい現実。

「本屋」は死なない

石橋毅史「『本屋』は死なない」

全国のユニークな書店員の話を聞いて回ったドキュメント。著者は専門紙出身だけあって、出版流通業界の現状や課題に触れつつ、電子書籍に無限の可能性を見たり、紙に文化の本質を置いたりということはない。

本屋が出版文化の興隆に果たした役割がよく分かるし、棚作りの工夫など、本屋好きにとっては読み物としても大変面白い。
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ヤバい経済学

スティーヴン・D・レヴィット、スティーヴン・J・ダブナー「ヤバい経済学」

経済学の手法を用い、米国の犯罪減少の最大の要因が中絶の合法化であることや、相撲の八百長を統計データを基に証明する。

子供が銃で死ぬリスクより、家の裏のプールで死ぬリスクの方が遙かに高いのに、銃のリスクばかりを気にしてしまう理由など、物事の見方として大変参考になる。
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私家版 差別語辞典

上原善広「私家版 差別語辞典」

言葉がどう規制され、差別語となるのか。この本は辞典と言うよりエッセイに近いけど、一人でも多くの人に知ってもらいたい内容。

メディアはどうしても無難な表現を使わざるを得ないが、過剰な自粛が言葉を消すことはあってはならない。不適切な言葉は「歴史上の言葉」に移行させるべきで、無理に葬れば、悪意は形を変えて再び姿を現すだろう。