二千億の果実

宮内勝典「二千億の果実」

「純文学」の小説がどうも小ぶりになっているような印象を受ける。日常を通じて普遍を描くこともできるだろうし、それこそが文学の可能性だろうけど、ただの本読みとしては、単純にもっとスケールの大きい小説を読みたいと時々思う。

前作「永遠の道は曲りくねる」をはじめとして、著者の作品のスケールは大きい。作品の長さそのものとは関係なく、人類の経験したすべてを小説にしたいという迫力が感じられる。
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その農地、私が買います 高橋さん家の次女の乱

高橋久美子「その農地、私が買います 高橋さん家の次女の乱」

今や地方の土地は負の資産になりつつある。貸駐車場に転用できるような土地はまだいいとして、中山間地の農地や山林などは放置するわけにもいかず、かといって買い手もいない。

父が実家の田んぼを太陽光パネルの業者に売る――。母からの電話でそのことを知った著者は、自ら土地を買い取り、田畑として維持することを決意する。その後の試行錯誤の日々をまとめたエッセー集だが、これが滅法面白い。
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ケアの倫理とエンパワメント

小川公代「ケアの倫理とエンパワメント」

「ケア」という言葉が最近よく聞かれるようになったが、それはこれまでの社会において、いかにケアという営為が軽んじられてきたかの裏返しだろう。近代社会では経済的・精神的な「自立」が重んじられ、他者に配慮し、関係性を結ぶ「ケア」の営為は軽視されてきた(その上で、介護や育児などのケア労働は女性などの弱い立場に押し付けられてきた)。

社会・経済活動の中でケアの価値観が軽視されたことは、文学作品の読解にも影響を与えていたのではないか。著者は「ケア」の視点から古今東西の文学作品を読み解き、近代的な価値観のもとで見過ごされてきた要素を丁寧に拾い上げていく。
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Humankind 希望の歴史 人類が善き未来をつくるための18章

ルトガー・ブレグマン著、野中香方子訳「Humankind 希望の歴史 人類が善き未来をつくるための18章」

 

人間は本質的に善良か、野蛮か。利己的か、利他的か。人間が信じるに足るものかどうかは、古来さまざまな分野で議論の対象になってきたが、近代社会はホッブズに代表されるような性悪説に基づいて構築されてきた。法や権力者の支配がなくては、人間社会は「万人の万人に対する闘争」に陥ってしまう――。そうした考え方は多くの人の心に根付いている。

しかし、著者は「ほとんどの人は本質的にかなり善良だ」と言い切る。人間の残酷さの証明とされるスタンフォードの監獄実験や、ミルグラムの服従実験などの欺瞞を暴き、人類がいかに協調性に富み、利他行為を厭わず、同胞を傷つけることに抵抗を覚える種かということを証拠とともに浮かび上がらせていく。その筆の運びはスリリングだ。
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ジュリアン・バトラーの真実の生涯

川本直「ジュリアン・バトラーの真実の生涯」

トルーマン・カポーティやノーマン・メイラーらと並ぶ米文学のスターで、「20世紀のオスカー・ワイルド」とも呼ばれたジュリアン・バトラー(1925~77年)。妖艶なたたずまいと奔放な言動、過激な作風でメディアをにぎわす一方、その私生活は長く謎に包まれていた。本書は、生前の彼をよく知る覆面作家、アンソニー・アンダーソンによる回想録の邦訳。

<以下ネタバレ>
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姉の島

村田喜代子「姉の島」

海は多くの命を生み出し、飲み込み、包み、育んできた

舞台は九州の離島。海女仲間や家族らの他愛ない会話が続く。島の海女には、ある年齢から歳を二倍に数える倍暦という風習があり、百数十歳という年齢に記紀神話の世界が重なる。読みながら、この作品世界が心地よく、いつまでも身を浸していたいと思う。
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三体/三体Ⅱ 黒暗森林/三体Ⅲ 死神永生

劉慈欣「三体」 「三体Ⅱ 黒暗森林」 「三体Ⅲ 死神永生」

  
 

しばらく読書メモをつける習慣が途絶えてしまっていたけど、1年の終わりに、印象に残ったものだけはまとめておこうと思う。

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今年、フィクションでもっとも楽しく読んだのは多分に漏れず「三体」三部作。全5巻。

読んでいる間、現実と物語の重さが逆転してしまうほど引き込まれる作品というのは滅多に出会えるものではないけど、これは、わりと本気で仕事とかどうでもよくなるほど作品世界に浸ることができた。1週間、寸暇を惜しんで読み続けた。
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小屋を燃す

南木佳士「小屋を燃す」

「畔を歩く」「小屋を造る」「四股を踏む」と表題作「小屋を燃す」の4編。医師として働きながら、私小説的な等身大の小説を発表してきた著者の退職後の日々。

うつ病を発症し、理想通りにはいかなかった医師としての半生。そして、退職。地元の仲間たちと小屋を建て、酒を酌み交わす。その日々もやがて終わりを告げる。
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