Neil Young 全アルバム 2020年代

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はじめに 関連作品 ランキング


Chrome Dreams(クローム・ドリームス) 2023年

ついに、というべきなのだろう。長年のファンにとっては説明不要の未発表盤で、ブートレッグでも最も有名な作品。それが公式ディスコグラフィーの中に位置づけられたことが感慨深い。1977年にリリース予定だった作品で、そのまま発表されていたら、70年代後半の代表作になっていたのでは。

録音時期は74~77年とばらけており、76年のセッションをまとめたお蔵入りアルバム「Hitchhiker」(2017年リリース)と重なる録音もある。「American Stars ‘n Bars」で披露された”Like a Hurriane”や、「Rust Never Sleeps」にクレイジー・ホースとのバンド版が収められた”Powderfinger”など、ほとんどの曲はその後に別のアルバムに収録されている。というわけで、ファンにとっては既におなじみの曲ばかりだが、ニールの創作過程が分かる重要なピースであり、まとめて聴くと、70年代中盤のニールの才能ほとばしる楽曲群に圧倒される。


World Record(ワールド・レコード) 2022年

飛び抜けた楽曲はない。ニール・ヤングのアルバムを聴き続けてきたファンにとっては、どれもどこかで聴いたことがあるような、良く言えば耳なじみの良い楽曲ばかりだろう。それでも、このアルバムは近年の作品では最も高い完成度を誇り、繰り返し聴きたくなる味わいに満ちている。

リック・ルービン(Rick Rubin)との共同プロデュースで、スタジオ・ライブ形式での録音。”Love Earth”や”This Old Planet (Changing Days)”といったフォーク調の曲から、激しい”Break The Chain、”ノイジーで長大な”Chevrolet”まで、フォーク、ロック、歪んだギター、枯れた声、シンプルなメッセージ、そして、優しさ。今のニールとクレイジー・ホースにしか出せない音である。

Noise & Flowers(ノイズ・アンド・フラワーズ) 2022年

プロミス・オブ・ザ・リアルとの2019年のヨーロッパ・ツアーを収録したライブ盤。直前に長年マネージャーを務めていたエリオット・ロバーツが亡くなり、その追悼ツアーとなった。

ニールのキャリアには常に友人らの死が存在したが、このアルバムでの演奏には悲壮感はあまり無く、むしろ盟友への感謝への思いが強くにじんでいる。プロミス・オブ・ザ・リアルとの間に親密感が育まれてきたのもあるだろう。選曲も充実しており、ステージに立つ喜びが「B面ベスト」的な名曲群に新たな命を吹き込んでいる。

ただ、臨場感を狙っているのかもしれないが、ブートレッグのオーディエンス録音のようなややこもったような音なのが残念。演奏が素晴らしいだけにもったいない。「Performance Series」の21に位置づけられている。

TOAST(トースト) 2022年

Booker T. & the M.G.’sとの「Are You Passionate?」(以下、AYP)に先立つ2001年、サンフランシスコのToast Studiosでクレイジー・ホースと録音していたという未発表アルバム。

“Quit”と”How Ya Doin’?”(AYPでは”Mr.Disappointment”)”Boom Boom Boom”(同”She’s a Healer”)はAYPで再演され、”Goin’ Home”はクレイジー・ホースとの別バージョンがAYPに収録されている。前3曲はソウル/R&B風味で、AYPバージョンの方が洗練されているが、クレイジー・ホース版の無骨さも捨てがたい。

一方、”Standing in the Light of Love”、”Timberline”、”Gateway of Love”の未発表3曲は、どれもまさにニール・ヤング&クレイジー・ホースという感じのドライブ感。”Standing-“と”Gateway-“は2001年のフジロックなどライブでは披露されており、この時期のブートレッグでは定番の曲。楽曲のレベルは高く、リリースされなかったのが不思議なアルバムだが、当時の人間関係の問題で全てお蔵入りにしてしまったとのこと。それが歳月を経て日の目を見るのもまさにニールらしい。

  

DOROTHY CHANDLER PAVILION 1971 2022年

ROYCE HALL 1971 2022年

CITIZEN KANE JR. BLUES (LIVE AT THE BOTTOM LINE) 2022年

「Official Bootleg Series」の第2弾としてリリースされた3枚(通し番号は2を飛ばして、3、4、5となっている)。どれもセットリスト、演奏とも素晴らしく、熱心なファンならずとも必聴盤。

「DOROTHY CHANDLER PAVILION 1971」(OBS 3)は71年2月1日のロサンゼルス公演、「ROYCE HALL 1971」(OBS 4)は71年1月30日にUCLAキャンパス内のホールでの公演を収録。「MASSEY HALL」や「YOUNG SHAKESPEERE」と同じツアーで、聴き比べるのも楽しい。

個人的に特筆すべきは、1974年5月16日にニューヨークのThe Bottom Lineにサプライズ出演した際の模様を収録した「CITIZEN KANE JR. BLUES (LIVE AT THE BOTTOM LINE)」(OBS 5)。

サプライズ出演だったこともあってか、公式の録音が残されておらず、本盤も海賊盤と同じオーディエンス録音が使用されている。そのため音質は決して良くないが、親密な空気、伸びやかな歌と演奏、貴重なセットリストで、ニールの数あるライブ盤の中でも唯一無二の内容。個人的にもBootlegで入手して以来、ニールのライブアルバムでは最も繰り返し聴いた1枚。まさかこの音源が公式からリリースされるとは。

タイトルは、オープニング・トラックで、後に”Push It Over The End”と正式に名付けられた曲に由来する。”Ambulance Blues”、”Revolution Blues”など「ON THE BEACH」に収録されることになる楽曲が披露され、11曲中10曲が当時の未発表曲。”Long May You Run”や”Greensleeves”も素晴らしい。

BARN(バーン) 2021年

2年ぶりのクレイジー・ホースとの新作。前作に続いて、クレイジー・ホースのメンバーは、ラルフ・モリーナ、ビリー・タルボット、ニルス・ロフグレン。ロッキー山脈にある古い木造の納屋(barn)で収録。その様子はダリル・ハンナが映像に記録している。

静かな曲から荒っぽい曲まで、歌の内容もノスタルジックなものから社会的なメッセージを込めたものまでが一つのアルバムに同居している。いずれも短期間で書き上げられ、即応的に録音されたようだ。どこか開放感のある演奏は、音楽ってもともとこういうものだったのかもしれないな、と感じさせる。

さまざまな音楽を試みて(時には空回りして)きたニールだけど、最近はどんどんシンプルになってきて、アコースティックのニールと、荒々しい「グランジの祖」(Godfather of Grunge)としてのニール、その他諸々の音楽性が一つに重なってきているような印象を受ける。

CARNEGIE HALL 1970(カーネギー・ホール1970) 2021年

1970年12月4日、ニューヨーク、カーネギー・ホールでのライブ音源。「Official Bootleg Series」という新シリーズの第1弾としてリリースされた(Archivesの「Performance Series」と位置づけが重なる気がするが、こちらはブートレッグで既に名高い音源を公式から出していくという趣旨らしい)。

ブートレッグでは、この日の深夜に行われた2ndショーが広く流通していたが、この音源が表に出るのは初めて。音質は文句なし。観客との親密な空気の中に、初期の代表曲から”See the Sky About to Rain”などの未発表曲まで、若きニールの才気みなぎるパフォーマンス。若い頃から老成、あるいは年齢を超越したような雰囲気を持っていたニールだが、このライブにはどこか初々しさも感じられる。

Young Shakespeare(ヤング・シェイクスピア) 2021年

1971年1月22日にコネチカット州ストラトフォードにあるシェイクスピアシアター (Shakespeare Theater) で行われたライブを収録。「Archives Performance Series」のVol.”3.5″。

「After the Gold Rush」と「Harvest」の間。「Live At Massey Hall 1971」の3日後。この時期のライブが悪いはずがない。

収録は”Cowgirl in the Sand”、”Heart of Gold”、”Sugar Mountain”など12曲。ニールの楽曲はどれもライブでこそ本当の顔を見せるが、特にこの時期はどの曲もライブ毎に違う顔を見せていて、いくら聴いても飽きない。約50分とやや短めのアルバムだが、「Massey Hall」以上に充実した演奏で、いずれの曲もオールタイムベスト級。個人的にはこのアルバムで”Don’t Let it Bring You Down”、”Helpless”の2曲の魅力を再発見した。ニール自身と音と観客、3者の親密な空気が完成されている。

Way Down in the Rust Bucket 2021年
(ウェイ・ダウン・イン・ザ・ラスト・バケット)

大傑作「Ragged Glory」を1990年9月にリリースしてから間もない11月にカリフォルニア州サンタクルーズのThe Catalystで行われたライブを収録したもの。

「Archives Performance Series」のVol.”11.5″に位置づけられているが、既に他にも”.5″を打っているアルバムがあり、ナンバリングには、もはやあまり意味がない…。この計画性のなさがニールらしい。きれいなナンバリングなんかいらないから、今後も小数点以下を駆使して名演をどんどん発掘していってもらいたい。

「Ragged Glory」の手応えを示すように、同アルバムに収録された10曲中8曲(”White Line”と”Mother Earth”を除く全曲。なお、”White Line”は以前からライブで歌っていた)を披露しており、その後ライブの定番になったものも多い。

「Weld」に収録された翌91年のツアーのウォーミングアップ的な位置づけのライブでもあり、90年代のニール&クレイジーホースのサウンドの記念すべき第1歩。湾岸戦争への怒りに満ちた「Weld」の轟音と比べると(会場による音の違いもあるけど)軽快で瑞々しく、ニールとクレイジーホースが演奏を楽しんでいる様子が伝わってくる。

Return to Greendale(リターン・トゥ・グリーンデイル) 2020年

2003年の「Greendale」ツアーの模様を収録したライブ・アルバム。
(このツアーでの来日から早17年。次はあるのだろうか……)

「Greendale」は、架空の町グリーンデイルを舞台にある家族の物語を歌ったもの。環境問題が大きなテーマとなっている。ライブでは、演劇仕立てのパフォーマンスがステージで繰り広げられた。

楽曲的にはやや単調ということもあり、発売当初から音楽的な評価は決して高かったとは言えないが、ニール・ヤング&クレイジー・ホースらしい演奏&楽曲で、個人的には00年代で最も好きなアルバム。ツアーのBootlegも繰り返し聴いてきたので、公式からライブ音源がリリースされることは喜ばしい。(アコースティック版のライブは、「Greendale」発売当初の付属DVDや配信の「Live at Vicar St.」で聴くことができる)

デラックス・エディションは、CDにLP、コンサート映像のBlu-ray、メイキング映像などのDVDがセットになっている。CDよりむしろ、このBlu-rayがファンにとってはうれしい。

The Times 2020年

新型コロナウイルスの感染拡大を背景に始めたストリーミング・コンテンツ”Fireside Sessions”の”Porch Episode”で演奏された曲を収録したEP。Amazon MusicとCDでリリースされた。

アコースティック・ギター1本での弾き語りで、録音も含め手作り感のある素朴なサウンドだが、大統領選やBLM運動を念頭にメッセージ色の強い曲が集められており、常に今を生きるニールの精神が強く滲む。

収録曲は、ボブ・ディランのカバーである”The Times They Are A-Changin'”のほか、”Alabama”、”Campaigner”、”Ohio”、”Southern Man”、”Little Wing”、”Lookin’ for a Leader 2020″。

“Lookin’ for a Leader”は、”maybe it’s Obama”と希望を込めて歌った2006年版(オバマ大統領の就任は2009年)の歌詞をアップデートし、トランプ政権打倒を訴えている。

“America has a leader
Buildin’ walls around our house
Who don’t know black lives matter
And we got to vote him out”

“Just like his big new fence
This president’s going down”

Homegrown(ホームグロウン) 2020年

1974年から翌75年初めにかけてレコーディングされた未発表アルバム。「Tonight’s The Night」、「On The Beach」の後、「ZUMA」の前の時期で、陰鬱で強烈な存在感を放つ前2作とは異なり、サウンド的には「Harvest」から「Comes A Time」につながる、軽快なカントリーロックとなっている。

当初75年のリリースを予定していたが、当時の恋人キャリー・スノッドグレス(Carrie Snodgress)との関係を扱っており、個人的すぎるという理由でお蔵入りに。結果的に、いったん発売が見送られていた「Tonight’s The Night」が日の目を見ることになった。

12曲中、”Separate Ways”、”Try”、”Mexico”、”Kansas”、”We Don’t Smoke It No More”、”Vacancy”、”Florida”の7曲が未発表曲。ベン・キース(Ben Keith)ティム・ドラモンド(Tim Drummond)などおなじみのメンバーの他、ザ・バンドのロビー・ロバートソン(Robbie Robertson)とリヴォン・ヘルム(Levon Helm)、エミルー・ハリス(Emmylou Harris)らが参加した曲もある。

“White Line”は1990年の「Ragged Glory」にクレイジー・ホースとの演奏で収録されたが、こちらはアコースティック版で、ロビー・ロバートソンとのスタジオ録音。2018年発売のライブ盤「Songs for Judy」(1976年のライブ)でも聴けるが、より繊細で胸に沁みる。

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