時間が経つにつれて、言葉が記憶となり、歴史となっていく。過去は日々再構成され、集団の記憶となる。それに抗うためには、個々の体験を残していくしかない。
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機関車先生
瀬戸内の小さな学校に口のきけない青年教師がやってくる、というあらすじだけ聞くと、「いい話」を狙いすぎているような気がして身構えてしまうけど、紛れもない名作。
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戯曲 福島三部作
第一部「1961年:夜に昇る太陽」、第二部「1986年:メビウスの輪」、第三部「2011年:語られたがる言葉たち」の三部からなる戯曲。戦後、福島の歩んだ半世紀が、ある家族の物語に重ねて描かれる。
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グレープフルーツ・ジュース
オノ・ヨーコの詩集。想像してごらん、と呼びかけるジョン・レノンの「イマジン」は、「グレープフルーツ」として1964年に出版されたこの詩集に着想して書かれた。
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ジョバンニの父への旅/諸国を遍歴する二人の騎士の物語
別役実「ジョバンニの父への旅/諸国を遍歴する二人の騎士の物語」
「ジョバンニの父への旅」はタイトルから連想されるように宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を下敷きとしている。
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南へ/さよならだけが人生か
舞台は日本を出て南へ向かう船の上。乗客と船員のとりとめのない会話が続く。乗客たちは日本を捨てていくようだが、その背景は説明されない。南に何があるのかも。船の上では、だらだらと弛緩した時間が流れる。会話にはユーモアが散りばめられているものの、そこに漂う空気はどこか暗い。
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辺境メシ ヤバそうだから食べてみた
食に関する名著はいろいろあるが、そこに並ぶ(と同時に異彩を放つ)一冊と言ってもいいだろう。
ゴリラにムカデ、タランチュラと、食材もさまざまなら、ヤギの胃液のスープや、豚の生き血の和え物、ヒキガエルをミキサーにかけたジュースなど調理法も多種多様。何をどう食べるかには人間の叡智、というのは大げさかもしれないが、人間の積み重ねてきた歴史が詰まっている。登場する料理の珍しさに目が行くが、食感や風味など、丁寧かつ的確(か確かめようがないけど)な表現で、なんとなく食べた気にさせる筆力がみごと。
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夏物語
個人の決定が尊重される時代であっても、誕生だけは当人の意志で左右できない。ならば命を生み出すことは、一方的な欲望の押しつけなのか。
本書は芥川賞受賞作「乳と卵」と前半部が重なっている。続編というよりも、全面的に書き換え、大幅に加筆した物語と言った方が正確だろう。
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ほしのこ
海沿いの小さな小屋。社会の外側で暮らす父と娘。少女は父親から遠くの星から来たと言われて育つ。やがて父はいなくなる。入れ替わるように、どこかから女の子がやってくる。後半、物語の視点は揺れ動き、「わたし」は山に落ちた飛行機乗りになっている。生と死の影が混ざり合う。
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聖なるズー
衝撃的な内容だ。それは題材がセンセーショナルだからではなく、人間関係における本質的な部分を問うているから。種を越えた性愛を通じて、誰かと対等な関係を結ぶとはどういうことかを考えさせられる。
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